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第52話 熊谷先生の憂鬱6

(熊谷先生語り) 青木先生の告白には本気かどうか真意の程が分からず、ただ単純に驚いた。他人の性癖にとやかく言える立場ではないが、俺は男が好きな訳ではない。 最後に意味深な言葉を残して去っていった彼と次会った時どんな顔をしていいのかわからない。まあ、話す機会もあまりないので、気を付けていれば問題はないだろう。 いやいや青木先生のことなんてどうでもよいのだ。葵が問題なんだと一人で悶々と廊下で考え込んでいると、視聴覚室へ移動する生徒の団体とすれ違った。 生徒の中に、見慣れた愛しい姿を見つける。 名を呼ぶより早く体が動いていた。 「伊藤君、ちょっといいかな」 考える間もなく俺は葵の手を引っ張っる。 「えっ?あっ?ちょっと……」 周りのクラスメイトがからかうように一斉に笑った。 「葵、何したんだよ? 熊谷に直接呼ばれるなんて、よっぽどだぞ。ご愁傷さま」 生徒に呼び捨てされたらいつもは即座に怒るのだが、今はそんな余裕はない。笑い声を背に、階段の踊り場の隅へ葵を連れて行った。 「何ですか、授業始まっちゃう」 不快そうに眉間にシワを寄せた顔も可愛いと思えるのは、色メガネのせいだろうか。 俺は周りが見えてない滑稽なただの男だ。 「葵、元気にしてたか?」 久しぶりすぎて、田舎のオカンみたいな言葉しか出てこなかった。 「…………はぁ……元気ですけど」 「よかった。テストが終わったら会おうよ」 「すみません。部活の試合があるんです」 「え、そんなに……休みの日も?毎日?」 「たぶん……もういいですか…………ごめんなさい。授業に遅れちゃう」 「あ、葵……………」 俺を避けるように走って行ってしまった。 何故に部活を理由に断るんだ。元からそんなにやってなかっただろうに。 不機嫌の理由が全く分からず唖然としたが、相変わらず可愛いかった。 俺たちって付き合ってるよな…………? 会えて嬉しかったのに、一気に気持ちが萎えてしゅんと萎んだように小さくなった。

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