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第54話 熊谷先生の憂鬱8
(熊谷先生語り)
「まさかとは思ったけど、生徒に手を出すとは世も末だな。来るとこまで来た感じがするぞ」
野田はウーロンハイを飲みながら続ける。
「だけど、祐樹をこんなにするとは、なかなかの子だと思うよ。ガキの恋愛だな。大人な感じは全くない」
完璧に葵に振り回されていると自分でもそう思う。俺は何故あの子にこんなにも固執してしまうのだろうか。もしかしたら嫌われたかもしれない恐怖に身震いした。
「相手は若いし、恋愛経験も少ないんだからその子のペースに合わせてあげれば?
祐樹のペースだと、ついていくので精一杯になるだろ」
野田は時々何かのお告げを述べるかのごとく、いいことを語る時がある。
焦ることはないのだと彼は言った。
「いいこと言うね。お前を改めて見直した」
「だろ?だから、相談料の代わりに女紹介してよ。俺もいい加減落ち着きたい。
いやぁ、女子高生……完璧に犯罪だよな。新聞やニュースで祐樹の名前を見るとか御免だからな。気をつけろよ。頼むぞ」
「ああ、分かってる。紹介の件、考えとく……」
「出来るだけ早く頼むよ。本当に明日でも、いや今からでもいいからなっ」
葵のペースに合わせてみようと思った。
恋愛なんて、100人いれば100通りやり方があるわけで、正解はない。俺と葵のやり方をこれから見つけていけばいいのだ。
明日は土曜日だからダメ元で電話してみるか。
何を不安に思っているのか話してくれるといいが、隠したいことを無理やり聞き出すことはしたくなかった。あくまでも葵主体で物事を運びたい。
その後、野田の会社の変なおっさんの話題に大爆笑しながら酒も進み、酔いも回り回って二軒目までは記憶があるが、それ以降は覚えてない。起きたら昨日の格好のまま家で寝ていた。もちろん葵から着信があったのも気付く筈がなかった。
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