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第55話 熊谷先生の憂鬱9
(熊谷先生語り)
時刻は午後2時を告げていた。
喉が酷く乾いていたので、水を飲み、軽くシャワーを浴びた。さっぱりしても体が怠いので、ふらふらとソファに横になる。何もする気力が起きなかった。
年々二日酔いが辛くなってくる。俺もいい大人だし、いつまでも若くはないから、こういう飲み方は止めないといけないが、無理だった。
携帯を見たら3回も葵から着信があり、慌てすぎて勢いが余り携帯を床に落とした。酔いつぶれて電話に出れませんでしたとは言いにくく、節操の無い大人に思われては身も蓋もない。とにかく掛け直そうと、ディスプレイの葵を押した。
「…………もしもし…………先生?」
3コールで葵が出た。
久しぶりに電話で聞いた声に安心する。
「おはよう……」
「おはよう………って今、3時ですよ。今まで寝てたんですか?」
よかった。昨日と違って普通に話をしてくれている。
「えぇまあ、ちょっと野田と飲みに行ってて。野田知ってるよな?」
「夏休みに行ったバーベキューで会った人ですよね」
「そう。飲み過ぎてしまって今起きたんだ。電話出れなくてごめんな。用件は何だった?」
「あ、あの…………話がしたいんですけど、会えませんか」
思ってもない申し出だった。
葵からどんな話をしてくるのか怖くなり、一瞬怯んだが平静を装って会話を続けた。
「今から?テストの中休みだけど、葵が大丈夫ならいいよ」
「俺は大丈夫です」
「じゃあ、うちにおいで。駅まで迎えに行くよ。学校からだいぶ離れてるから、知ってる人には会わない。大丈夫だから、安心していいよ」
駅名と待ち合わせ場所を指定して電話を切った。本当は車を出せばよかったのだが、二日酔いのため今日は止めておいた。
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