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第59話 熊谷先生の憂鬱13

(熊谷先生語り) 「続きをしなくてもいいの?」 キスの後、煙草を吸いにベランダに出ようとしたら、葵が不思議そうに聞いてきた。 続き……続き……キスの続き…… いかん、煩悩が邪魔をする。 「キスの続きは、おいおいやっていこう」 「先生はしたくない?」 丸い素直な瞳が俺を見つめる。 いやいやいやいやいやいや。 したくないとか、そんなことは絶対ない。 葵はそういうところがまだ鈍い。したくない、イコールやらないではないのだよ。 ここは大人になって答えよう。 「俺はしたいよ。これからずっと一緒に居るんだから、今日勢いでしてしまうより、葵が本当にしたくなった時にしよう。 何度も言うけど、やらなくても嫌いにならない。好きだよ」 一番気にしてたのは、断ることで嫌いになられたらだろうか。その言葉を聞いた途端に安堵してほっとした表情になった。 体を繋げないと相手の気持ちを確認できないと思っている。それしか知らなかったんだからしょうがないか。まっ白で何も知らない子に教えるには酷な関係だ。 俺は、ずるずると欲望に呑まれるのが嫌だった。だから、物分かりのいい大人を演じたけど、これ以上は我慢できるか分からなかった。 だが、猪俣と同じになるのがもっと耐えられなかったので、ギリギリのところで理性を食い止める。 俺はやりたがりの大人では断じてないのだ。 頭を冷やしたくてベランダで煙草を吸っていたら、葵も出てきた。 「寒いですね」 膝を抱えた葵と並んで座る。 「今日は先生と話ができてよかった。色々ごめんなさい。もう隠したりしないよ」 日はとっぷりと暮れていて、夜の静けさが辺りを包んでいる。白い息が染み渡るように夜空へ溶けていった。 「このまま葵が話をしてくれなかったらと想像しただけで寒気がする。隠し事は無しな」 「先生、これからもよろしくね」 照れくさそうに、葵は言う。 「こちらこそ」 安心したら急に空腹を覚えた。 起きてから何も食べていないことに気付く。いつの間にか二日酔いは治まっていた。 「もう遅いから送ってくよ。ついでにラーメン食べに行こう」 「わーい、ラーメン!!俺もお腹空いた」 ラーメンで喜ぶ葵を見ながら、この笑顔を守ってやりたいなと強く感じた。

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