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第60話 兄弟というもの1
(葵語り)
暗い道が明るく照らされて、一緒に並んで歩いてくれる人が現れた。
安心したせいなのか、テストが終わった途端高熱が出た。朦朧とした頭は何も考えられず、ひたすら寝ることしか出来なかった。余計な事を考え出すと止まらなくなるので、好都合とばかりに状況を受け入れることにした。
今は先生の言葉を素直に信じよう。
結局熱は四日目にすとんと下がり、解毒したかのようにスッキリした。発熱にはデトックス効果があるって聞いたことがある。積もり積もった色んな毒で俺の心身は限界だったのかもしれない。
でも、もう大丈夫。
先生がいるからきっとどんな道でも歩いて行ける。新しい1歩をようやく踏み出した気分だった。
久しぶりに学校へ行くとすごい速さで島田がすり寄ってきた。相変わらずの軽さは健在だ。
「葵くーん、寂しかったよ〜。山本とお弁当食べるのに飽きたの。会いたかった〜」
それに山本じゃなくて山本『さん』でしょ。
山本先輩も島田の言いなりでいいのだろうか。サッカー部の時はもっと上下関係に厳しかったのにどうしたんだろう。
島田は俺の顔をじっと見つめた。
「な、なんだよ」
「熱のせいなのかな。いつもより色気が3割増しぐらいあるよ。なにかあった?」
「何にもない」
「うっそだ〜。いつもより増してピンク色背負ってるよ。肩から上が特にほんわか恋の色だって」
「ないよ。適当なこと言うなって」
島田は色恋には敏感で察知するのが早く、言ったことは大体当たっている。使い方次第ではいい感覚だと思うのだが、今のところいい使い方はしてない。
先生とは音楽室へ移動する時にすれ違った。猫背気味の歩き方は遠くからでもすぐ分かる。すれ違った時、ほんの一瞬手と手をきゅっと握り合わせた。手だけの短い逢瀬は誰も知らない2人だけの秘密だ。
俺は部活があるし、先生も仕事があるのでしばらくは逢えない。次会えるのは2週間先のクリスマス近くになると思って、指折り数えていた。
実は行事というものが苦手で、恋人と一緒に過ごすクリスマスというのも想像がつかなかった。だからクリスマスに対して特に拘りは無い。俺は先生に会えればそれでいい。
早く2人で会いたいな。
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