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第62話 兄弟というもの2

(葵語り) 放課後、病み上がりのため部活を休んで帰ろうとしていた俺に島田が再び近寄ってきた。足音もなく空気のように忍び寄る影に、身体が驚きで跳ねる。 「葵君、今日は部活は休むの?奇遇だね、僕もこれから帰るんだ」 「………………」 この前、家に連れ込まれて変なことされたため、放課後は極力会わないよう避けていたのに見つかった。そのまま無視して帰るに尽きる。俺は島田の言葉をスルーしてスニーカーへ履き替えた。 「待って。お願いがあるの」 帰ろうとする俺の腕をガシっと掴んできたので、容赦なく振り払う。 「何?家なら行かないよ。離せって」 「違う。あのさ、また彼氏役して欲しいんだ」 「………………え、やだよ、帰る」 「何にもしないから。キスもしない。お願い。僕を助けて。本当の本当にお願い」 こいつに関わると絶対良くないことが起こると、俺の第六感が告げていた。 「ちょっとだけカフェでお茶して話すだけ。葵君は座っててもらえばいいの。美味しいパンケーキ奢るから」 『美味しいパンケーキ』に心がざわつき始める。お腹も少し減っていた。 俺が甘いものを大好きなことを誰から聞いたのか、奥の手とばかりに島田が誘ってくる。 「…………や、だ」 「お願い。お願い。一生のお願い。なんならワッフルも付ける。ホイップ増しで」 うーん…………座ってるだけなら、いいか。 俺の思考はスイーツに傾き始めていた。 「何もしないって約束するなら……いいよ。本当に座ってるだけだからな」 「助かった。ありがとう。葵君好きだよ」 「ちょ、抱きつくなって。人が見てる」 島田に好きって言われてもちっとも嬉しくない。島田の為ではなく、パンケーキとワッフルの為に行くんだからな。 待ち合わせのカフェへ向かう道中で、今回の相手の話を聞いた。 島田にしては珍しく、なんと相手は同い年の女の子だった。お兄さんが島田の落ち着きの無い生活を見るに見かねて紹介したのだそうだ。お兄さんの気持ちは痛いほど伝わってくるけど、島田に女子高生は似合わないと思う。 島田はその子と一回だけ映画に行ったけどクソつまんなかった、と吐き捨てるように言っていたため、彼女が気の毒で胸が傷んだ。 俺が彼氏って現れたらどうするんだろう。 紹介してもらった男の子に彼氏がいました〜って、多大なショックを受けるに違いない。 この間の男とは理由が違う。 女の子に今から酷いことをすると思うと、スイーツにつられて承諾したことを早々に後悔していた。

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