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第63話 兄弟というもの3

(葵語り) 待ち合わせのカフェは駅前の細い路地を入った隠れ家的な場所だった。普段は近寄らない界隈には、雑貨屋や立ち飲み屋などが並んでいて知る人ぞ知る裏通りになっている。 迷わず進んでいく島田に、ついて行くのがやっとだった。栗色のふわふわ髪を目印に追い掛ける。口を開かなければ寡黙で賢そうなのに、勿体無いなと後ろ姿を眺めながら思った。 目的の店は見るからにお洒落だった。入口にはクラシックな自転車が目印で、ガラス張りの店内からは温かな明かりが漏れていた。 店内は板目の床に木目調の温かいテーブルとソファが置いてあり、観葉植物に籐の籠やタペストリーが棚に並べられている。 高校生が制服で入ったら間違いなく浮きそうな空間に、ずかずかと島田は入って行く。 自然に奥の席へ通された。 島田と隣同士でソファへ座る状況に違和感を覚える。彼氏役なんだからしょうがないと言われても落ち着かない。 「ここ来たことあるの?」 「うん。兄ちゃんの店なんだ」 島田の兄ちゃんって何やってる人なんだろうか。飄々として明るいお兄さんだったけど、掴みどころがない人でもあった。 相手の女の子は来ていないので、取り敢えず飲み物だけ注文して携帯を確認すると、先生からメッセージが入っていた。他愛もない内容に思わず1人で笑ってしまう。 「何笑ってるの?何?彼氏?彼女?」 覗き込む島田を身体ごとブロックする。 「幸せが減るから見ないで」 「ちぇっ、葵くんもとうとう熊谷先生とやっちゃったか」 「なっ……んで?やってないし!!!!」 「だだ漏れだよ、君ら2人。とっくの前から知ってたし。つまんないのー。ピンクを背負ってたのもそれかぁ。まだやってないだけで今後はやる予定でしょ。熊谷先生はルンルンだろうなぁ。ああ……ショックだ……悔しい」 「………………あっそう……」 「僕も彼氏がほしー。彼女でもいいから恋人が欲しい」 やってることと言ってることが矛盾してる。今から断ろうとしているくせに、その言い分はなんなんだ。 その時、1人の女の子がこちらへにやってきた。 「真理くん、久しぶり」 例の彼女だった。

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