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第64話 兄弟というもの4
(葵語り)
彼女は思わず見惚れてしまうくらい綺麗だった。黒くてサラサラの長い髪とすらっとした手足、アーモンド型の柔らかい目に、艶っぽい唇。まるで日本人形みたいだ。
島田はこの人にしておけばいいのにって素直に思う。
「…………ああ………」
島田は素っ気なく挨拶をする。
ただ興味が無いだけらしい。俺と話していたテンションよりは数段下がった。
「こちらは……?」
早速俺のことを聞いている。
「友達、だけど、彼氏」
島田は早速先制攻撃を仕掛けてきた。わざわざ言わなくても普通に断ればいいのに。2人のやりとりでいつ修羅場になるのかビクビクしている俺の心臓が保ちそうにない。
「彼氏さん、初めまして。大塚弥生といいます」
弥生さんは驚きもせずに礼儀正しく俺に挨拶をした。
「どうも、伊藤……葵と申します」
微妙な空気が流れたのち、島田がバンッと机を叩く。不貞腐れてこの間と同じようなセリフを述べた。島田はモテるのだなと感心したのも束の間、修羅場が訪れようとしていた。
「だーかーらー、分かったでしょ?弥生とは付き合えない。俺には葵がいるんだ」
「別に彼氏は居てもいいよ。彼女にしてくれればいいから」
「忙しいから弥生と会う時間が無い」
「私が真理くん家に行けば、少しでも会えるでしょう?」
「葵が怒るから、二股はできない。俺は1人しか愛せないんだって。しつこいようだけど、弥生とは付き合えない」
「…………葵さん、真理君が今言ったことは本当ですか?」
ばか島田は平気で約束を破り、俺に小芝居を要求してきた。弥生さんの綺麗な瞳が俺を見据える。もう嘘なんか吐きたくない。
「ご、ごめんなさい……ちょっとトイレに……」
しばらく二人で話し合ってもらえればいいと、いたたまれなくなった俺は一時離脱することにした。どっちも折れそうにない平行線の話し合いを聞いているのは辛い。
逃げるようにトイレへ入ろうとしたら、店員さんと勢いよくぶつかった。
「………すみません。大丈夫ですか?」
「はい…………」
白シャツに黒いカフェエプロンがよく似合っている背の高い店員さんだった。お洒落な店はスタッフさんも洗練されているようだ。
見上げた顔に見覚えがあり、デジャブかと思うくらい熊谷先生に雰囲気がそっくりだった。
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