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第68話 葵のやりたいこと1

(葵語り) 先生と約束した週末はすぐにやってきた。冬休みは受験の追い込みがあり、補修三昧で忙しくなるそうで、早いクリスマスをすることになった。 うちの親は基本的に外泊も行き先を伝えていれば何も言わない放任手だ。だから、友達の家に行くと言えば簡単に遊びに行くことができた。もしかしたら、お泊まりするかもしれないと思いリュックには内緒で下着も入っている。 先生の家の場所は大体分かる。一人で行くから大丈夫と伝えて駅から歩くことにした。 ぐるぐる巻きした青色のマフラーに深く潜り込んだ。気に入って買ったスカイブルーのマフラーは、葵だけに青い、と姉ちゃんに爆笑されてタンスの奥に押し込んでいたけど、久々にひっぱり出して着けてみた。 温かいし、青色は嫌いじゃない。 寧ろ、暗いけど澄んでいるところが好きだったりする。 あそこのコンビニを曲がって、そして、パン屋の角を…………あれ? 覚えていたつもりの道のりは見慣れぬ道を経て、車が沢山行き交う大通りへと繋がっていた。見たことない風景に焦り始める。 もうちょっと行ったら見覚えのある建物が見えるかもしれない。 でも、歩けども歩けども知らない風景が続いているだけだった。キョロキョロしていたら携帯が鳴る。 「今どこにいる?乗る予定の電車だったらもう家に着いてる筈だろう」 「あのぅ……道に迷ったみたい」 先生は敬語を嫌がるので、極力タメ口を使うようにしていた。11歳も上の人に友達口調を使うのは別の意味で緊張する。 「迷子かい。そんな気は薄々してた。迎えに行くからそこから動くな」 「はい」 目に付く建物や看板を聞かれて電話を切った。 浮かれてたんだろうな、俺。 熊谷先生が優しくて、幸せで。 寒い路上の路肩に腰掛けて先生を待っていた。 「全く反対方向じゃないか。どこから間違えたのか聞きたいよ。ホントにもう」 「ごめんなさ……あ……」 と笑いながら言われて、涙が出るほど恋しい人を見上げる。 会いたかった、俺の先生。 だけど、隣には先日会った弟の和樹さんもいた。

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