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第72話 葵のやりたいこと5
(葵語り)
心臓がばくばくいっている。
二人っきりの室内で押し倒された状況から、次に何が来るのかは安易に想像ができた。俺のやりたかったことなのに、待ちに待ったことなのに、ものすごく恥ずかしくて、この場から逃げたいとさえ思ってしまう。
低反発のラグへ横たわった俺に、先生が優しくキスをする。唇を隈無く舐められて溶けそうになった口内へ舌が入ってきた。
緊張していた全身の力が抜ける。たぶん立っていたら腰が抜けていただろう。しがみつくように先生に必死でついていくと、暫くして口が離れた。近距離で目線を合わせながら、髪を撫でられたので、ゆでダコみたいに顔が熱くなる。
大切にしてもらっている感じがむず痒くて、同時に心地良くもあった。
「ようやく力が抜けたな。このまま、いい?それとも今日はやめとくか」
俺が逃げ腰なのを勘付かれたのだろうか。あくまで行為は俺主体だからと、先生は真面目な顔をして言う。
「……あ、あの……」
「ん……なに?」
「このまま、お願い……します」
ひぇ……言ってしまった。催促してるみたいだけど、俺だって先生と繋がりたい。
「分かった。がっついたらごめんな。なるべく優しくする。嫌だったら言って。止めれたら止める」
「でも……先生は男の俺でも大丈夫?」
どうしても聞きたかったことをおずおずと切り出すと、先生は目を丸くした。
「今さらそれ言う?俺はこうなってるんだけど。そんな愚問は受け付けません。俺は今から葵を抱くよ」
太ももに押し付けられた固いものが何かを理解するには時間がかからなかった。
ちゃんと俺で興奮してくれてることに、嬉しくて涙が出そうになる。先生は女の人しか抱いたことがないだろし、やっぱり不安なのだ。
「ありがとう。俺、どんな先生でも受け入れる。平気だから好きにやっていいよ」
「悲しくなるからそんなこと言わないの。葵もいっぱい気持ちよくなろうな。徐々に慣れてくるし、しっくりくるようお互い歩み寄ろう。俺だって緊張してるんだ」
こう言っては猪俣先生に失礼かもしれないが、前の経験とは全然違う。全てが帳消しになって、初めてのような心持ちだった。好きな人に求められることはどんなに幸せなことか、身をもって実感した。
暫し見つめ合い、長いキスをする。先生の手がするりと俺の服の中へ入ってきた。
「葵はすべすべのもち肌だ」
「そう……かな……ぁぁっ……」
乳首を摘まれて小さな呻き声を上げると、嬉しそうに先生の口角が上がった。
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