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第76話 葵のやりたいこと9
(葵語り)
リュックに忍び込ませてきた下着が役に立った。行為のあと、眠そうにしていた俺に先生がお風呂を入れてくれたのだ。
日はとうの前に沈み、小窓からは夜の闇が見える。さっきの余韻に浸りながら、長い間湯船に浸かっていた。
すごかったな……
セックスがこんなに満たされるものだとは知らなかった。もう、思い出すだけでにやけてしまう。相手のために尽くすとはどういうことかを先生から教えて貰った気がした。
そして、先生のことを好きになりすぎていて、際限が分からない。
俺は赤い顔でぶくぶく泡を吹きながら、さっきまで挿っていた後ろに触れてみた。
あんなに優しい解し方なんか知らないよ。
また先生と抱き合いたいと切に願った。
「葵、寝てない?」
あまりにも長湯だったらしく、心配した先生が様子を伺いに来た。風呂場の扉越しに影が見える。
「起きてる。もう出ようかと思ってたところ」
「ならいいけど、早く出ないと帰るのが遅くなるぞ。親御さんが心配するだろう」
『親御さん』を気にする辺りは教師らしい。
でも、今日は『親御さん』への心配は要らなかった。
「あ、あの、先生……」
「ん?」
「今日は、友達の家に泊まるって言ってあるから、帰らなくても大丈夫なんだ……けど」
少しの間沈黙があり、風呂の戸が勢いよく開いた。先生は真面目な表情で立っている。
「ひゃぁ、怒った?」
「明日まで一緒にいるのは素直に嬉しいよ。だけど、嘘は良くない。ちゃんと俺とのことをご両親に言ってから、了承を得て泊まりにおいで。それまでは止めておこう。今回限りだ」
「う……ごめんなさい」
「本当はいつもお前を側に置いておきたいんだ。だけど、俺と葵は生徒と教師で、周りに気付かれたら離れなければならなくなる。矛盾してるが、我慢も必要なんだ。会える時間を大切にしよう。分かって欲しい」
さらに先生は、せめてもの自制をしなくては人間として駄目になってしまうと、難しいことを言っていたが俺にはさっぱり意味が分からなかった。好きなら一緒にいればいいという考えは、大人だと一筋縄ではいかないらしい。
「とにかく風呂からあがりなさい。飯を食おう」
「はーい」
「それと……葵さえ良ければ、また後でやろうな。夜は長いから、葵さえ良ければだけど」
「……なっ…………」
にやにやしながら、先生は風呂の扉を閉じた。またやりたいって思ってたことがバレている。なんでだろ……
こうして俺のやりたいことは、すべて叶えてもらった。初めてクリスマスというものを恋人とお祝いした。
ご飯もそこそこに、再びベッドへなだれ込んでしまったのは言うまでもなく、幸せな時間を過ごすことができた。
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