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第78話 ほんとのきもち2
(慧 語り)
真理がうちで働き始めてから一週間が経った。可愛い顔と人なつっこい性格のせいで、瞬く間に彼は店の人気者となった。
そのうち真理目当てのお客様も来るようになり、無理やり働かせて負い目を感じていた俺の心も少し救われる。栗色でふわふわの髪の毛が店内を動き回るたび、犬を連想させる姿は看板犬のようだった。
今のところ真理本人も嫌がらず店へ来てくれるので、安心していた。
12月に入り、街中がクリスマス一色になった。caféRも例に漏れず、店内はクリスマスに染まる。大きなツリーを飾り付けるのは本当に楽しく、心待ちにしている行事の1つだった。
ツリーを組み立てて、膨大な数のオーナメントを下げていると、真理が俺に話しかけてきた。
「ねえ、クリスマス当日も僕はバイトなの?」
擦り寄ってくると撫でたくなる衝動は、小型犬みたいだ。真理にはシフトが存在しない。来たい時に来てもらっているので、俺の一存でどうにでもなった。
「もちろん。クリスマスは忙しいんだ。それに冬休みだけど、何か予定があるのか?」
手元は飾り付けに集中しながら、真理は口を尖らせる。
「えー。僕にだって会いたい人の一人や二人はいるんだけど……」
「恋人?」
真理は否定の意でかぶりを振った。
「ならここでバイトをしなさい。そうだ、それまでに本命が出来たら連れておいで。伊藤葵君みたいなふりは駄目だぞ。そしたらクリスマスは休んでいいよ」
「えっ……う……」
一瞬真理が悲しそうな顔をしたが、俺は気のせいだと話を続ける。
「真理の本命はどんな奴か見てみたいんだ」
好奇心ではなく、真理のことは心配していた。共同経営者である悠生 の弟として小学生の頃から彼を知っている。
綺麗な顔立ちと白い肌は女の子のようで、中学生になると色気を身につけるようになった。その頃になると外泊が多くなり、兄が何度言っても聞く耳を持たず、たびたび色恋で他人と揉めるようになる。
大きなアザを背中に作った時も、切り傷が絶えなかったこともあったようで、俺は常に彼を心配していた。
浮いた生活から離れて、地に足を着いた生活をして欲しかった。うちでバイトをすることが、変化のきっかけになればいいなと淡い期待を抱いていた。
「彗さんは、クリスマスやらないの?」
「仕事だ。一年で一番忙しい時期は働かないと儲からないよ」
「家に帰っても?彼女は怒らない?」
「あ、彼女か。そんなことじゃ怒らないよ。俺の仕事も理解してる」
真理はふうん、と言って再び作業に没頭し始めた。
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