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第79話 ほんとのきもち3

(真理語り) 彗さんへの想いは思っていたより拗れていた。 知らず知らずのうちに姿を探してしまう。ずっと避けていた想いが溢れて止まらなくなっているようで、彗さんを常に目で追っていた。 彗さんが他の女性スタッフと仲良く話してい るのも気になる。誰かに笑顔で話しかけていたら嫌な気持ちになる。あの笑顔が僕のものになればいいのにと、心の中に黒い感情が渦巻いていた。 だから、彗さんに恋人を作れって言われた時はかなり堪えた。 彗さんにとって僕は恋愛対象でも何でもなく、ただの仕事のパートナーの弟でしかない。自覚していても事実を突きつけられると辛かった。 次第にこのもやもやから逃げて、誰かにめちゃくちゃに抱かれたいと考えるようになる。 片思いには慣れてないから、困る。 夕方、レモンが無くなったので買いにいくようにキッチンスタッフからお使いを頼まれた。 冷んやりとした空気の中、スーパーへ足早に急ぐ。彗さんは少し前に銀行へ出かけたので、ばったり会えるかもしれないと、うきうきしながら歩いていた。それにしても寒くなったな。日が落ちるのも早い。 「真理じゃん………久しぶり」 聞きなれない声が僕の名前を呼んだ。声の主の方へ顔を向けたが、誰か分からない。 「誰?」 「俺だよ、信一。まさか忘れた?」 あっ、思い出した。 葵君と仲良くなったきっかけの信一だ。公園でキッパリと断ってから音沙汰無しだった。 「あ、あー……久しぶり。元気だよ」 「バイトなんかやってんだ。お前らしくもない」 「あはは、そう思う?僕も何でやってるのか分かんないくらい」 信一と話すのは楽だった。 気を遣わなくていい、相手の気持ちを察することを必要としない関係。 どう思われても構わないから、何を言っても平気だ。 「バイトは何時まで?終わったら久しぶりに会わないか」 「……………いいよ。バイトは7時までだから、その後なら」 終わったら電話するからと約束して信一と別れる。その時、信一の目が一切笑っていないことに全く気が付かなかった。 今までなし崩し的に遊んできたツケが回ってくるなんて、思ってもいなかった。

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