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第81話 ほんとのきもち5

(真理語り) 仕事終わりに携帯を確認すると、信一から着信が引くくらいあった。すっぽかしたのは申し訳ないが、所詮セフレなので、後腐れなく付き合っているつもりだ。それを間違えたからこの前みたいなことになったんだけど、次からは大丈夫なように気を使っている。 信一に謝罪のメッセージを送り、帰途へついた。 それから数日後の雨の日だった。 朝から冷たい雨が窓を叩いている。 街全体を覆う灰色の雲は、次から次へと大粒の雫を落としていき、瞬く間に冬の冷気に埋め尽くされる。息を吐くと白い水蒸気が空へ溶けていくのが面白くて、何度もやった。 「島田はバイトを頑張っていて、偉いな」 放課後、バイトに出かける僕に葵君が感心して呟いた。 「その言い方、馬鹿にしてるよね」 「そんなことないよ。お前にしては真面目に通ってんなぁと思ってるよ」 「まあね。やる事ないからしょうがなくだけど」 葵君は、最近僕に熊谷先生とのことを話してくれるようになった。先日は2人で早いクリスマスをしたらしい。赤い顔をしてたから、たぶんヤったんだろう。はにかむ葵君の笑顔は本当に天使みたいだった。高校に友達らしい友達がいなかった僕は、葵君という親友ができて嬉しく思っている。最も、向こうは親友だと認識してくれてないかもしれないが。 「雨だから気をつけてバイトに行けよ」 「葵君も部活頑張ってね」 葵君に見送られ、手を振って校舎を出る。 アスファルトを早足で歩いたため、雨でスニーカーが濡れた。靴下まで滴ったかもしれないと、不快な冷たさに身震いした時だった。 角を曲がって、急に視界が真っ暗になる。 …………何?………… ふわりと身体が浮き、急に手足の自由が利かなくなった。何が起きたのか分からない。 「早く乗せろ」 聞きなれない男の汚い声がした。 暴れようにも素早く紐みたいなもので拘束されている。状況が把握できないまま聞き耳を立てていると、みぞおちに今まで感じたことのない鋭い痛みが走った。 あまりの痛さに、息ができない。 それから…………記憶はない。 気が付いたら、何度か来たことがあるマンションの一室だった。

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