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第84話 ほんとのきもち8

(真理語り) 解放されたのは明け方だった。 手錠をしていた手首が見るに堪えない傷になって抉れていた。 手首を守るようにズボンとパンツを履いて立ち上がろうとするが、立ち上がれない。力が入らず倒れてしまう。太腿には何本もの乾いた血の筋が出来ていた。怖くて後孔を確認出来ずに震える手でジッパーを上げた。 信一がシャワーを浴びている今のうちに帰らないと、また捕まる。手錠を外してくれたのだから、逃げても追いかけては来ないだろう。奴の気持ちは満足したらしい。 這って玄関まで行く。 身体中が痛かった。今まで、縛られたり切られたり殴られた事は多々あったけど、今回のが一番キツい。度を超えた痛め方に、乾いた笑いがこみ上げてくる。 きっと奔放に遊び歩いていた罰なんだ。 信一に捕まりたくない一心で歩を進める。 やっとの事でマンションの敷地内を出た。 街全体が冷たく冷えて、誰もいないかのように静まり返っている。 ペタペタと裸足で歩く。感覚の無い足先は塊みたいに鈍い痺れを伝えてきた。 300メートル程歩いた後、何かに躓き転倒した。 身体が悲鳴を上げていて、もうこれ以上進めない。路肩に座り込んで、ズルズルと引きずってきたカバンの中から携帯を探した。信一に電源を切られていたそれは、冷たい無機質な機械の塊になってしまっていた。電源を入れた途端、着信の音が鳴った。 「けい……さん……」 出れない。こんな姿見せられない。 でも、でも、声が聞きたかった。 思わず通話をスクロールしていた。 「もしもし、真理?どこにいる?」 彗さんの声を聞いたら、涙が溢れてきて、泣いて話すことができなかった。 彗さん……会いたい……

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