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第86話 ほんとのきもち10

(彗語り) 真理は小さく丸まって座っていた。 直視できないくらい痛々しく、朝の湿った空気と共に生臭い鉄の匂いを発していた。辛うじて着ている制服にはべっとりと血が付いている。 誰かに拘束されて乱暴されたのはすぐ分かった。俺が抱きかかえると気力だけで保っていた意識は飛び、眠るように気を失う。 直ぐに悠生が知り合いの病院へ連絡した。一先ずそこで手当てをしてもらうことにして、二人で真理を連れ帰った。 昨日は朝から雨が降っていた。 いつもより外が気になり、ガラス越しに暫く落ちる雨を眺めていた。無数の水滴が窓を滑っていく。 真理がアルバイトに来ないのだ。 連絡ひとつ寄越そうとしない。電話は何回かけても留守電だ。 真理は無断で休んだことが無く、遅れる時は必ず連絡してきたし、機嫌が悪くても必ず来た。拗ねた子供みたいだけど、連絡もなく休むのは彼らしくなかった。 兄の悠生に聞いてみたが、家にも帰っていないらしい。悠生はまた悪い病気が出たんじゃない?と皮肉りながら笑っていた。 だが俺は彼の様子がいつもと違う気がして心配だった。悠生の言う悪い病気が出て誰かのところに行ったとしても、連絡くらいできるのではないのか。 その日は結局、営業時間中に連絡が無く、やっぱりここで働いても何も変わらなかったのかと肩を落として帰宅した。 深夜に眠れなくてベランダへ出る。 12月に入りぐっと寒くなり、まだ辺りは真っ暗だった。ベランダのへりに顎を乗せてぼーっとしていたら、ふと真理に電話してみようかと思った。 今度留守電だったら、もう知らない。 もう心配してあげない。 自分の中で願掛けをして、真理の名前をタップした。 ずっと留守電だった電話は、ツーコールほどで繋がる。 よかった。無事なんだな。ほっとしたのも束の間、聞こえたのは真理の嗚咽だった。

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