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第87話 ほんとのきもち11
(真理語り)
CafeR近くの小さな診療所に僕はいた。
寝てはうなされて、寝てはうなされてを繰り返し、三日経ったら身体は大分楽になった。点滴も減った。夜は誰もいなくなるから、兄ちゃんが付き添ってくれて、怖い思いもせずに済んだ。だけどされたことは消える訳もなく、いつまでも暗い影を落としていたが、日常は流れている。そうも憂いてばかりはいられない。
一週間後には学校へ行けるようになった。
今回のことで、兄ちゃんに散々説教をされた。
僕も懲りたし、もうセフレは当分いらない。僕からエロを引いたら何も残らないって葵君に言われそうだけど、きっぱりと手を引いた。
学校へは兄ちゃんが毎日送り迎えをしてくれる。だけど、拉致された場所近くは今でも怖くて直視できない。
車で通っても足が震えてしまうのだ。
そんな僕を見た兄ちゃんが、
「信一はあのマンションには居ない。この街にも居ないから、大丈夫。大丈夫だよ。真理は何も心配することないから、安心してゆっくり治そう」
と肩を抱いてくれた。
信一はもう居ない、会うこともないと思ったら少し楽になった。時々フラッシュバックのように痛みや冷たさが蘇ってくるけど、回数は減っていくよとお医者さんにも言われる。
アルバイトは当分休むことなった。
彗さんは、病院にも時々様子を見に来てくれた。他愛のない話をして帰っていくだけで、信一の件には一切触れてこないから、僕もそのままにしていた。
かっこわるいところを見せちゃったし、変な告白までしたので、水に流したかった気持ちはある。僕と彗さんは交わることなく人生が続いていくのだ。そういう星の元に生まれたのだと、諦めていた。しょうがない。
そうして、クリスマスイブがやってきた。
一年で一番CaféRが忙しい日だ。
僕は冬休みに入っていたので、兄ちゃんに内緒でcaféRの様子を見に来てしまった。暇で家にいるより、動いていたかったのが本音だ。
こっそり覗くと、彗さんが見えた。
お客さんが沢山の店内を忙しそうに歩き回っている。やっぱりかっこいいなぁ。眼鏡が素敵。背も高くて色気もある。僕がこんなんにならなければ真正面から告白したのにな。
同じ玉砕でも自ら向かっていった方が達成感があったのに、僕は色々と損をした。
入り口で張り付くように見ていたら、
「入んないの?」
頭上から声が降ってくる。
振り返ると和樹さんだった。
うわっ、熊谷先生に似てる。気持ち悪いくらい熊谷臭がするではないか。今からでも高圧的な口調が発せられそうだった。
「…………入らない、けど」
「覗いてるの外から見たらおかしな人だよ。入って手伝えば?どうせそのつもりできたんでしょ」
はい、その通りです。
和樹さんの後ろについて、僕は久しぶりにcaféRへ足を踏み入れた。
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