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第88話 ほんとのきもち12

(真理語り) 店内へ入ると、瞬く間にスタッフ達に囲まれた。その中にはもちろん彗さんもいて、僕が見上げると困った顔で仁王立ちしていた。 「真理…………身体は大丈夫なのか?」 「ええ、まあ……もう平気、か、な……」 彗さんと面と向かって話すと久々で照れる。病院ではいつも僕が横になっていたから、余計に緊張した。 「こいつ、覗き見みたいなことやってたんですよ。今日は人手が足りないしいいですよね」 和樹さんが僕にユニフォームを手渡した。 「………うーん、まあ後で悠生も来るしいいか。真理は着替えたらホールに入って。熊谷君はキッチン」 「うーす」 「彗さん、僕、働いてもいいの?」 「どうせ駄目って言っても帰らないでしょう。しんどくなったら休むのが条件だ」 「了解。頑張る」 クリスマスイブとクリスマスは昼夜を分けずに予約制でカジュアルディナーを出している。毎年予約はいっぱいで、席はカップルや家族連れに埋め尽くされていた。 久しぶりに働くのは楽しかった。 お客様の笑顔を見ていると、幸せのお裾分けをしてもらった気分になる。作業に没頭すると余計なことを考えなくて済むし、何より信一と一番遠い場所にいて、安心を得たかった。 ここは僕の庭みたいなもので、優しく愛しい人達で溢れている。 途中で兄ちゃんに見つかって帰されそうになりながら彗さんが説得してくれて、なんとか終わりまで働くことができた。あっと言う間に閉店時間になり、急いで後片付けと明日の準備をする。 「真理は俺が送っていくから、終わるまで待つように」 「あ、うん。ありがとう」 兄ちゃんが別の用事でいなかったので、彗さんが自宅まで送ってくれることになった。 店長は色々やることがあるらしく、レジを締めたり、予約を確認したり、忙しない。 次々とみんなが帰って閉店後の店には僕と彗さんだけになった。クリスマスで騒がしかった店内はしいんと静まり返っている。僕がスタッフルームで携帯をいじっていると、彗さんが入ってきた。 「今日はお疲れ様。これ、みんなには内緒だよ」 可愛らしいサンタが乗った小さなホールケーキを机に置いた。 「真理が来てくれて助かった。元気そうでよかったよ。お疲れ様。メリークリスマス」 「わあ、ケーキだぁ」 思わず子供のように喜び、フォークを持って食べようとしたら、 「ちょっと待って。食べる前に話がある」 と、突然、腕を掴まれた。 な……なに? 「この間の返事……今していいかな?」 真剣な目をして彗さんが言った。 「こ、の間……の返事って…………?」 「真理が傷つけられたあの日、電話口で俺に告白したこと、忘れたか?」 心臓がドキドキして、手汗でフォークが滑る。

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