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第92話 それぞれの年越し2
(葵語り)
部屋へ入ると宴会は始まっていた。
大人たちはお酒を飲んで楽しそうにわいわいと話をしている。
先生を探したら直ぐに見つかった。和樹さんの隣に座っている。視線を送るとにこやかに手を振ってくれた。
島田は弥生さんについて意見があるようで、さっきから兄へ懇懇と訴えていた。
「なんであいつを呼んだのさ。兄ちゃんは卑怯だ。あいつとどうにかなる確率は微塵もないからね」
「お前は根本的に同世代の友達が少ないから、俺が呼んだの。葵君だけじゃだめでしょ。喧嘩したのに来てくれる弥生ちゃんに感謝しなきゃ。お前が仲良くしろ」
「無理。絶対に無理。それに葵君さえいれば僕は生きていけるもん」
ギャーギャー言う島田を島田兄が一刀両断していた。兄も兄だが、弟も弟である。兄はそんな弟を手で押しのけて、「ちゅうもーく」と大きな声で呼びかけたので一瞬で辺りが静かになった。
「みなさん、これからロシアンルーレットをやります。当たった人には素敵な罰ゲームを用意していますから、是非どうぞ。年越しの運を使い果たしましょう!!」
目をキラキラさせながら言う島田兄は、色んなことを企画するのが好きな人なんだろうと安易に想像ができた。そして、俺はこういう雰囲気がちょっと苦手だったりする。
「あの……ロシアンルーレットって何か知ってますか?」
偶然にも俺の隣に座っていた弥生さんが聞いてくる。
「食べ物に一つだけ違う中身を仕込んで、順番に食するゲームだよ。違う中身を当てた人が負け。大体は辛かったり酸っぱかったりするんだ」
弥生さんは大きな目をパチパチさせながら俺の話を聞いていた。表情がクルクル変わって一緒にいる人を飽きさせない可愛い人だと思った。長い睫毛の伏せ目も綺麗だ。
まもなく大きなピザがテーブルへ置かれた。見た目はシンプルなマルゲリータである。
「ハバネロソースがかかっているから、一つはものすごく激辛だよ。いっせーのせいで食べてね…………せーの…………」
島田兄の呼びかけでみんな一斉に口へ入れる。
「………………っ…………」
「え……弥生さん……?大丈夫?」
焼きたてのピザをもぐもぐと咀嚼している俺の隣で、口を抑えて真っ赤な顔をしている弥生さんがいた。
その場にいた誰もが当たってはいけない人に当たってしまったと思っただろう。
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