92 / 124
第93話 それぞれの年越し3
(葵語り)
弥生さんは顔を真っ赤にさせて震えていた。
盛り上がっていた室内は一気に冷え冷えとした空間へ変わる。俺は弥生さんの肩を持って洗面所へ連れて行き、吐かせた後、口を濯ぐように促した。
全然盛り上がらなかったなと、場を回想した。こういうゲームは人を選ぶらしい。
「大丈夫?」
「口の中がピリピリして痛いです」
「弥生ちゃんこれ飲むと少しは和らぐかもしれない。まさか君に当たるとは思わなくて、ごめん……」
「気にしないでください。昔からくじ運が悪いんです」
島田兄が持ってきた牛乳を弥生さんは黙って一気に飲み干した。肩で荒く息をしていたが、徐々に落ち着いてきたので一緒に席へ戻る。
弥生さんはみんなに慰められていた。俺は無慈悲な罰ゲームのことが気になっていた。泣きっ面に蜂とはこのことを言うのではないか。
「弥生ちゃんはリタイアにしたので、罰ゲームは無しにします……では次に……」
悠生さんの計らいにより、弥生さんがリタイアとなった。まあ、痛々しくて見てられなかったから罪悪感があったのだろう。周りがホッとしたのも束の間、突然弥生さんが不服そうな表情で立ち上がる。
「いいえ、やります。フェアじゃないです」
えっ?その場のみんなが思ったと思う。
島田の時も絶対に譲らなかったのが記憶に新しい。
「私は罰ゲームをやりますから、言ってください」
意地が強いというか、男前な性格というか、見た目と真逆で驚く。悠生さんの目が激しく泳いだ。きっと野郎用の罰ゲームしか用意してなかったんだろう。そりゃそうだ。弥生さんにやってもらっても可哀想になるだけだろうに。
「弥生さん、止めといた方がよくない?」
「いいえ、やりますから、何でも言ってください」
しばしの沈黙のあと、島田兄が口を開く。
「………………じゃ、じゃあ、コンビニにパシってもらおっかな。足りないものあったし、女の子一人だと夜道は危ないから、葵君と一緒に行ってもらおう」
「あ、えー、俺……?」
「葵さん、よろしくお願いします」
ふと辺りを見回したら先生がいなかった。
煙草でも吸いに行ったのだろうか。
そう言えば今日は一度も会話をしていない。
悠生さんから買い物リストをもらって、上着を羽織り弥生さんと外に出た。コンビニの場所は島田に何度も確認したから迷わず行けると思う。大丈夫。いざとなったらスマホでもナビはできる。弥生さんが誘導してくれるだろう。
外はひんやりとした空気で、背筋がピンと伸びた。辺りは真っ暗で、底冷えの予感がする。あと数時間で新しい年を迎えるのだ。
「じゃあ行こうか」
弥生さんを促し、歩き出した途端のことだった。
「弥生ちゃん、俺も一緒に行ってもいいかな?」
ひょこっと先生が姿を現したのだ。
「ええ。こちらこそお願いします………」
結局三人でコンビニへ行くことになった。
ともだちにシェアしよう!