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第94話 それぞれの年越し4

(葵語り) 弥生さんを挟み、コンビニまでの道を3人並んで歩いた。さっきから先生と弥生さんは楽しそうに会話をしている。 先生は、弥生さんが島田と俺が付き合っていると思い込んでることを知り、にやにやしていた。あれは意地悪いことを考えている顔だ。 何か嫌な予感がする。 「弥生ちゃんは『葵君』みたいな彼氏はどうなの?さっき優しくお世話してもらってたでしょ。お似合いだなと思って見てたんだよね」 「いえいえ、葵さんは真理さんのものですから、彼氏なんて滅相もない」 「でも葵君は弥生さんのことまんざらでもなさそうだよね。どうなの?」 「え、はぁ……可愛い子だと思いますよ」 「ふうん……葵君は弥生さんがタイプなんだ」 どう答えたらいいのか、言葉に詰まったが、どっちに転んでも不快に思う人はいる訳で、先生には後でフォローすればいいし、俺は社交辞令を述べる。実際に弥生さんは可愛いから、嘘を言っている訳では無い。 「あの、熊谷先生には彼女いるんですか?」 弥生さんが遠慮がちに聞く。 「いるよ」 先生は躊躇いもせず即答するので、俺のことかとドキドキしながら次の言葉を待った。 「どんな人なんですか?」 「とにかく可愛い人だよ。一緒にいて心が温かくなるし、俺も癒されてる。まだ付き合って間もないけど、ずっと大切にしていきたいなと思ってる」 弥生さんの質問はきっと年齢とか容姿を指していただろうに、はぐらかして説明している。それでも会話は成り立っていた。 先生のくれた言葉が、俺を優しく包む。 ヤバい。嬉しくて涙が出そう。 可愛いって言われても普段は煩わしいだけなのに、今日はプラスの感情しか湧かなかった。 「素敵な人なんですね。私もそんな風に自身持って気持ちを語れる相手に出会いたいです」 ふむふむと先生の話を真面目に聞いて、弥生さんが笑顔になる。 「大丈夫。弥生ちゃんにもきっと現れるよ。年上からの忠告としては、島田だけはやめておいたほうがいいかな。あんまオススメしない」 「あ、それは俺も同感。もっといい人が絶対にいると思う。言っておくけど、島田と俺は何にもないからね。付き合っているフリしてただけで、ただのクラスメイトだからね」 「えええっ…………そうなんですか。まあ……」 白い手を口に当てて驚く弥生さんは、まるで日本人形みたいで、彼女なら素敵な出会いがあるだろうと思った。良からぬ輩も寄ってきそうなのは心配だが、島田に固執することは何一つないのだ。 間もなく視線の先の方にコンビニの明かりが見えた。

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