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第95話 それぞれの年越し5
(真理語り)
そのころの島田家。
葵君と弥生がコンビニへパシリに行ってから、いつの間にか熊谷先生までいなくなっていた。
3人で行ったらしく、邪魔な弥生を想像しながらほくそ笑む。熊谷先生の思い通りにはなるまい。ああいう我の強すぎる大人はどうかと思うし、ましてや教師の上に葵君と付き合ってるだなんておかしい。不謹慎だ。
僕は彗さんに会いたかった。
来るのが待ち遠しくて、ずっと時計とにらめっこをしていた。
時計の針は22時を指している。大晦日のcaféRの営業は20時までだから、もうじき来ると思う。
クリスマスイブに両想いになってから、彗さんはキスすらしてくれなかった。僕はいつでも構わないのに、そういう雰囲気をわざと避けている感じがした。
だから今日は僕からキスをしてやると決めていた。今年中にキスしないと絶対に後悔する。
邪魔な弥生が居ない今のうちに、彗さん早く来い来いと手ぐすねを引いて待っていた。
「真理、鍋の準備をするから手伝って」
彗さんを待っていたら、兄ちゃんに呼ばれた。
僕は兄ちゃんの手伝いするほど暇ではない。
思いっきり嫌そうな顔をしたら、小突かれた。
「痛ってぇ……なんで僕なんだよ」
「お前はもてなす側なの。だから手伝うのは当然だ」
「えーえええ……めんどくさ……」
しょうがなく重い腰をしぶしぶ上げた。
台所で野菜を切って、鍋の出汁を取る手伝いをする。あー、つまらん。
気付いたら兄ちゃんまでいなくなっている。
だから大人は自分勝手だから嫌いなんだよ。
「手伝おうか?」
しょうがなく1人でやっていると、和樹さんが台所に顔を出した。
やったー、助かったと、遠慮なくお願いする。
二人で台所に立って鍋の準備をした。知ってはいたけど、和樹さんはなかなか包丁捌きが上手い。
「真理君って、うちの兄貴と葵君のこと知ってた?」
和樹さんはこれが聞きたくて僕の近くに来たんじゃないのかなと思うくらい、何の前触れもなく質問してきた。
「知ってます。毎日見ていて気付かない訳がないくらいラブラブですし」
本人の口からは最近聞いたけど、そういう余計な小ネタは省いておく。
「ふーん。学校ではどうなの?」
「まあまあ、好き同士って感じで、いちゃいちゃしてますかね」
本当は学校では、わざと関わらないようにしてるけど、ちょっと過大表現をしてみた。
和樹さんって熊谷先生のこと結構好きみたいだからさ、面白くて揶揄ってみた。
「…………なんかむかつく………」
力を込めてダンッと包丁で豚肉へ切込みを入れる音がキッチンに響いた。
僕の一言でこんなに振り回されるなんてどんだけ単純なのと、和樹さんの弄り甲斐に楽しさを感じていた時だった。
「遅くなりました…………」
店のスタッフ数人連れて彗さんが姿を見せた。
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