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第96話 それぞれの年越し6

(真理語り) 僕は彗さんへ抱きつきたかったのに、あっという間に囲まれて傍へも寄れなかった。 出遅れた感満載のまま一瞬で気分が萎える。 そのうち話せる時が来るといいなと、僕は再び台所で和樹さんとの作業に戻った。和樹さんは例の如くさっきから言葉を発しない。 あることないことを言って和樹さんを刺激しようかと思ったが、僕の良心がブレーキをかけた。憧れの兄貴が自分より遥か年下男子といちゃいちゃしてると知り、いい思いをする人はいないだろう。おまけにそこら辺の女子より可愛いときている。 彗さん達が来たので、仕切り直しをする。 僕と和樹さんが準備した鍋を囲み、みんなで乾杯をする。 こういう時の兄ちゃんは本当に楽しそうで、瞳は小学生みたいに輝いていた。元々何かを企画するのが大好きな性格である。 さっきのロシアンルーレットの続きをやろうとしていたため、つまらなくなって僕はその場を離れた。 彗さんには益々近づけない。今だってみんなの中心で笑って全然僕を見てくれない。 僕は2階の自室でふて寝をすることにした。今日は朝から働き通しで疲れてたため、間もなくあったかい布団の中で眠りに落ちてしまった。 どれくらい寝てたんだろうか…… ゆさゆさ誰かに揺り動かされていることに気付く。 「誰……?」 寝ぼけて曖昧な視界がある人間をゆっくりと認識し一瞬で目が覚めた。 「真理さん、具合悪いですか?大丈夫ですか?」 弥生だった。 こういう時は普通、彗さんとかじゃないのかと、激しく憤りを感じた。なんで弥生がここに居るの? 「おーい、全然出てこないから具合悪くなったと思って、弥生ちゃんに様子を見に行ってもらったんだけど大丈夫か?」 兄ちゃんがドアから顔を出した。 「眠かっただけ。二人とも出てって。ほんとにもうあっちへ行って」 「なんだよ……真理、待てってば」 二人を追い出して、ドアを閉める。 ここ最近一番の深いため息をついた。 どうも兄ちゃんは弥生と僕をくっつけたがっている。どう見ても合わないでしょ。 キィ……… ドアが開く音が再び何者の侵入を告げる。すっかり鍵を閉めるのを忘れていた。 僕はガバッと起き上がりドアの方向を睨む。 入ってきたのは、今度こそ、今度こそ正直に彗さんだった。 「ごめん。なかなかみんなに解放してもらえなくて。真理、待ってただろう」 姿を見たらじわっと涙が浮かんできた。 「彗さんに会いたかったんだよ……」 近くて遠い距離に思わず涙声になる 「毎日店で会ってるから泣かないの。寂しい思いをさせたね。寝ぐせついてる」 彗さんはベッドに座る僕の隣へ腰掛け、頭を撫でた。彗さんが僕に会いに来てくれただけで、すべてが吹っ飛んだ。つまり、機嫌は一瞬で直ったのである。 「うん。もういい」 「長居すると誰か探しにくるから、少しだけど……」 「けど……何?」 彗さんが黙って眼鏡を外す。優しくて深い茶色の瞳と目が合い、吸い込まれそうだと思った。 「真理はずっとキスがしたかったでしょう?」 彗さんの顔が近づき、チュッと触れるだけのキスをくれた。 突然のことに驚いていると、 「違う?俺の勘違いだった?」 にっこり笑い、もう一度キスをくれた。 なんかね、こういうの初めてで どうしていいのか分かんない。カッコよすぎの彗さんに見惚れちゃって何も言えない。 触れるだけのキスから深いキスになるのは必然的で、頭の中が彗さんでいっぱいになる。 彗さんのキスは少しアルコールの匂いがした。

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