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第98話 それぞれの年越し8

(葵語り) コンビニで言われたものを購入し、帰りも三人並んで歩いた。相変わらず機嫌がいい先生は弥生さんと仲良く話をしている。職業柄というか、相手から言葉を引き出すのが上手い。 島田の家の前に着くと、先生は弥生さんに買ってきた荷物を袋ごと手渡した。 「弥生ちゃんは先に入っててくれる?俺たちは後で行くよ」 弥生さんが頷いて中に入って行くので、俺もそれに続こうとしたら、ダッフルコートのフードを先生にグイと引っ張られた。 「うぐっ、苦し……何?煙草吸ってから中に入るんじゃないの?」 「葵はこっち」 襟首を掴まれた猫のように引っ張られたまま、元来た道を引き返した。 「ねえ、どこへ行くの?」 「散歩。普段あんまり一緒に歩けないだろ。こんな時くらいいいじゃないか」 引っ張られていたフードが楽になったかと思えば、手が繋がれていた。外で手を繋ぐのは久しぶりだった。 「それにもうちょっと二人でいたい。葵は弥生ちゃんばっかり構ってる。俺にヤキモチを妬かせようとか思ってた?」 「そ、そんなつもりは全然無いよ。弥生さんは小動物みたいに可愛いからつい構いたくなるだけで、ふぇ」 むにゅっとほっぺをつねられる。 い、痛い。 「可愛いとか俺の前で言わないで。小動物が小動物を褒めても同類でしょうが」 「ふぁい……」 先生にヤキモチ妬かれたことに、お腹がむず痒くなる。喜びに似た恥ずかしような感情に包まれた。 「しばらく歩けるなら、神社へ初詣に行こう」 「いいけど、一緒にいるところを誰かに見られない?」 「んー。人がいっぱいいるだろうし、紛れてわかんないかもよ。気にするまでもない」 この人の無防備で体裁をあまり気にしないところは俺が好きな部分でもある。それがかえって自分の首を絞めることにならないといいのだが、心配でもあった。 繋いだ手をぶんぶん振りながら歩く。 時々手に持っていかれて転がりそうになりながら、笑顔で歩を進めた。

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