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第99話 それぞれの年越し9
(葵語り)
神社はすごい人だった。
光るように明るいそこは、新年が来るのを今か今かと待ちわびているようだ。
「葵は方向音痴だから絶対迷子になる。はぐれないように掴まってろよ」
「うん」
俺は先生の手をぎゅっと握った。
間違いなくこの人混みは迷子になる。それにしても起きている人の多いことよ。新年という特別な日を迎えるため、沢山の人が今か今かと待っていた。
キョロキョロしながら辺りを見ていたら、いきなりコートの帽子を被せられた。
途中、人にぶつかりながら前が見えないまま進む。
「ちょっとこのままで……知ってる人がいた」
ほら言わんこっちゃない。
俺は先生の手を離し、代わりに先生のコートの裾を持つ。目立たず迷子にもならない最良の方法だ。
「誰?」
「気のせいかな。青木先生かと思ったんだけど」
「化学の?」
あの人気者の先生だ。
特に女子に人気があって、ファンクラブが有るとか無いとか聞いたことがある。あまり好きな部類の先生ではない。
「こんなとこで知り合いを見かけるとは、びっくりした」
「だから、見られたらよくないって言ったじゃん。困るのは先生だよ」
「だな。さくさくっとお参りして帰ろう」
鳥居を潜り、お参りに並ぶ。
携帯を見たら11時50分だった。並んでいる間に新年を迎えそうだ。
「先生、あと10分で今年が終わるよ。なんか夢みたい」
今年は色々あったなと、しみじみと想いに浸る。まさか年越しを熊谷先生と過ごすとは思いもしなかった。
「葵、来年もよろしくね」
先生が屈みこみ、フードを被ったままの俺と唇を重ねた。冷たいと思いきや先生の唇は温かで柔らかい。
うわ、外でキスしちゃった。
「ひ、人が見てるから、もう……」
自分の顔が赤くなるのが分かる。
「だぁれも見てない。気にしない。葵は俺だけを見てればいいの」
ぐいと肩を引き寄せられて幸せな気持ちになった。
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