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第100話 それぞれの年越し10
(葵語り)
今年も来年もずっと先生と一緒にいれますように……とお願いして、境内を後にした。
御守りを買いに行った先生を人混みを避けた隅の方で待っていた。
それにしても人が多い。
家族、友達、恋人、みんないろんな人と歩いている。クリスマスは否定的な俺だけど、年の節目に大切な人と過ごすのは大事だと思う。
ぼーっと見ていたら、知っている姿を目が捉えた。化学担当の青木先生だ。
先生が見かけたことは間違いじゃ無かったんだ。見付かって後々面倒くさいことになると嫌なので、下を向いて隠れるように小さくなる。行き過ぎるまでジッとしていようと思ったらタイミング悪く携帯が鳴った。
島田からだった。
こんな時にあいつらしい。
「もしもし……」
「葵君、もうどこにいるの?二人でどっか行ってさ。僕を置いていかないでよ。寂しいんだけど」
「初詣に来てる。もう帰るから」
島田はまだ何か言ってたけど、申し訳なく思いながら途中で切った。
そして青木先生がいた場所に目をやると誰もいなくなっている。周りを見てもそれらしき人ははおらず、安心して携帯のディスプレイに目を落とした時だった。
「誰を探してるの?もしかして僕?」
人間は驚きすぎると声が出ないって本当だ。
青木先生は、俺の真横にいた。
年齢の割には幼い顔立ちに長めの髪型、女子が好きそうな雰囲気をこんな夜中なのに惜しげも無く放っていた。
「…………ひっ」
座っている俺の前にしゃがみ込み、向かい合わせで目が合う。
「君は、2年3組の伊藤葵君だね。あけましておめでとう」
「おめでとうございます。あ……あの、さっき似た人を見たので本人がどうか確かめたくて……探してました」
もっともらしい嘘がつけた自分を内心で褒める。
「伊藤君は、お家の人と来たの?」
「いえ、友人と来ました」
「そう。お友達はどこに?」
「御守り買いに行きました。青木先生は一人ですか?」
「まさか。僕も友達と一緒だよ」
ふふっと流すように笑われる。
「ですよね」
「夜も遅いから気を付けて帰るように、新学期に元気な姿で会おう」
「はい……」
青木先生はそう言って、人混みの中に消えていった。
何だったのだろう。
しかも担当してもらったこともないのに、俺のクラスとフルネームを知ってた。
気味の悪い人だと後味悪く思ったのだが、それは正しかったのだと後で知ることとなる。
その後、しばらくして先生が帰ってきた。
御守りを買うためにすごい並んだと疲れた顔をしており、青木先生のことに驚いていた。
何か言われた?としきりに気にしてたけど、怪しかっただけで、特に何も言われなかった。
先生は受験生でもないのに俺に学業の御守りをくれた。
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