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第102話 教科書泥棒1
(葵語り)
冬休みが終わり、新学期が始まった。
伊藤家では、大学生の姉ちゃんがバイトを始めた。かっこいい人がいるからと、ウキウキして毎日出掛けている。姉ちゃんは普段から相手の気持ちを省みず突き進む所があるので、相手の人が気の毒だ。きっと迷惑になっていることだろうが、残念ながら弟として為す術はない。
学校では島田といる時間が増えた。
秋ぐらいまでは俺が敬遠していた。最近では一緒にいるのが心地よく感じるようになり、だいたいいつも近くにいる。
派手に遊ぶことを止めた島田は普通のかわいい高校生になったと思う。たぶん……
島田と連んでると、女子から二人は付き合ってるのかと聞かれることが何度かあった。その度に全力で否定をするけど、島田に惹かれる男の気持ちも分からないではなかった。現に加瀬先輩や山本先輩のように餌食になった人もいるのだし、野郎には無い色気を感じる時もある。
でも、俺には先生がいるから、島田とは何かある訳がないのだ。
今までも、これからも。
ここからが今回の事件の始まりである。
おかしいな、と気付いたのは四時限目だった。
確かにあったはずの、リーディングの教科書が無い。
昨日は持って帰っていないから机に入れっぱなしだった。もしや俺の勘違いで、家に忘れてきたのかもしれない。しょうがないから隣の子に見せてもらいその場を凌いだ。
「おーい、伊藤、落し物だぞ」
そして昼休みに担任が教室へやってきて、俺に薄汚れた教科書を手渡したのだ。確かに無くしたリーディングの教科書だった。
まるで旅をしていたかのように、あちらこちら傷がある。
「え、これなんで?」
「北校舎のゴミ箱に捨ててあったんだと。教科書にちゃんと名前書いてて偉いな」
持ち物にはちゃんと名前を書くのは常識。ではなくて、捨ててあった?北校舎はめったなことでは行かないし、どうして捨てられないといけないんだろう。何か人為的な作為を感じる。
珍しく予感は的中していた。
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