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第104話 教科書泥棒3
(葵語り)
放課後、島田の思いつきで教卓の裏側へ隠れて待つことになった。広くはないが、2人で入ることは可能なので、向かい合わせになって座る。
「ねえねえ、なんか秘密基地みたいじゃない?」
「怖いことになるかもしれないんだから、もっと危機感を持てよ」
島田はえへへと楽しそうに笑った。全く緊張感が無い。
「2人きりでドキドキしちゃうよ。葵君、手繋いでもいい?」
「いやだ」
「けち」
「……なんとでも言え」
少しして、生徒が帰ったはずの教室に話しながら数人が入ってきた。島田と目を合わせてから、息を潜めて静止する。息もかかるくらい近い距離に島田がいた。
「それでよー、信一さんが急にいなくなってぇ、警察に捕まったみたいで。絶対に誰かが垂れ込んだって言われてる。たぶん当分出てこれないやつ」
このアホそうな話し方は野々村だな。金髪でピアスのちゃらい奴で、話せばなかなか普通だったりする、見た目だけが騒がしいクラスメイトだ。
「信一さん、何したの?」
「わっかんないけど、もとからあんまりいい噂はなかったっしょ。俺は嫌いだった」
野々村達は忘れ物を取りに来たとかで、ひとしきり捕まった信一とかいう男の話をして帰って行った。雰囲気的に野々村は犯人ではない。
そもそも犯人が現れる保証がどこにあるのか。もう今日は帰った方がいいと思えてきた矢先だった。隣の島田を見ると、涙をぽろぽろ流しながら震えている。自身の肩を抱いて小さくなっていた。まるで、シェルターに逃げ込んだばかりの子供みたいに幼く見えた。
「…………しまだ?……」
心配になって肩に手を伸ばすと、驚いたようにビクッと身を引かれる。
「…………すん……ぐすん……」
何があった?
チャラい野々村がどうかした?
どうしたらいいんだろうとオロオロしてしまう。島田には島田の事情があるから、無理には聞かない方がいい。きっと彼の琴線に触れる何かがあったのだろう。とにかく安心させてあげねばと、直感が告げる。
手始めにそっと島田の手を握ってみた。
「……平気か?」
「うん……ごめ……ん、止まらない……葵くん……ごめんなさい……」
柄にもなく島田がしきりに謝ってくるので、堪らなくなった俺は、島田を腕の中に引き寄せた。
島田、ほっせぇなぁ。
何食べて生きてるんだろと思うくらい、無駄な肉が無い。栗色の髪は、近くだとより一層ふわふわしていた。
「…………ぐず……」
暫く島田のすすりなく声を胸に当て聞いていた。
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