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第107話 教科書泥棒6
(葵語り)
見たことのない一年生は、背が高く、真面目そうな印象だった。島田曰く、相当な変態顔らしいが、俺にはよく分からない。
何のために教科書を盗んで捨てているのか、改めて自らに問うても身に覚えが全くなかった。理由は改めて本人に確認してみたいと思う。
最初は乗り気ではなかったのに、実際取り逃がすと非常に残念であった。
帰り道、バイトを休んだ理由を彗さんに説明しなければならない島田のため、caféRへ寄る。
「葵君、このことを熊谷さんに相談した?」
慧さんは島田の話を聞いた後、眉間に皺を寄せながら開口一番俺へ尋ねた。
「えっ?してませんけど……」
呆れながら長いため息をつかれる。
「今すぐ電話しなさい」
「え、あ、あの……」
「いいから、電話をしなさい。全てはそこから」
良からぬ雰囲気を感じた俺は言われるがまま先生に電話した。先生は始終相槌のみで話を流し、一通り説明が終わると、今から行くから待ってなさいと冷たく電話を切った。
たぶん怒っている。むむう……
「……先生は今から来るそうです」
「えーっ、熊谷先生が来るの?視線が怖いから、あの人嫌なんだけど」
ベチッと慧さんが島田の額を叩いた。
「いったーい。なんだよ、いきなり」
「真理は黙る。葵君、こういうことはまず熊谷さんに相談しなさい。恋人であり、先生でもある熊谷さんへ一番最初に伝えるべきことだと思う」
「そういうものなんですか?」
「真理に相談して何か解決した?」
否定の意味を込めてぶんぶんと首を振る。
「余計にややこしくなっただけだろう。君たち2人は危ないことこの上ないよ」
「……俺、どうして先生に言わなかったんだろう……」
「それも含めて、熊谷さんとよく話し合いなさい。真理にはキツく言い聞かせておく。もう17歳なんだから、考えて行動しよう。ぼーっとしている間に、子供のまま成人になっちゃうよ」
辛辣な言葉がグサグサと突き刺さる。17歳だけど、『まだ』ではなく『もう』というところに、行動の幼さを悟る。
俺は先生に相談しなかったことをものすごく後悔するのだった。
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