116 / 124
第117話 教科書泥棒16
(葵語り)
名残惜しくて、一緒にいたかったのに無理矢理家へ帰された。
やっていることが急に先生っぽくなるのも気に入らない。セックスの時はただの雄で、対等に快楽を貪っているように感じるけど、そこから離れたら立場は全く違うのだ。先生からしてみれば、俺は全くの子供だ。だから従うしかない。
翌日、久しぶりに生徒指導室へ呼ばれた。
しかも、島田を連れてという条件付きだ。昨日のキスが余程許せないのか、それともまたまた先生ぶって注意するのか、どっちにせよ俺にとっても耳が痛い内容だろう。
それに教科書泥棒だって気持ちは落ち着いたものの、何も解決していない。
昼休みに島田と生徒指導室へ向かう。
生徒の笑い声が校舎に響き、覗いた窓からは青く澄んだ空が見えた。午後の日ざしは眩しくて、今が冬だということを忘れてしまいそうだった。
「呼び出しって、葵君……まさかあのこと言ってないよね?」
「……まあ……その……ごめん」
歯切れの悪い俺の返事に、勘が鋭い島田はすぐ気付く。
「言ったんだ。信じられない。僕が怒られるじゃん。でも、葵君はお前だけのものじゃないって言い返してやるからね。スケベ変態エロ教師め……」
ふと、渡り廊下の向こう側から誰かの視線を感じる。一瞬間違いかと思ったがやっぱり違和感は残っていて、気味悪さが消えない。
振り返ってみたら誰もいなかった。
おかしいな……確かに感じたのに。
「葵君、行き過ぎ。こっちだってば」
島田に腕を引かれ、我に返る。
「ああ、ごめん。さっきから誰かに見られてるような感じがして」
「そう?気のせいじゃない?誰もいないよ。ほら、変態教師がお待ちかねだ」
俺は気持ちを切り替えて、生活指導室のドアを引いた。
「島田は久しぶりだね。葵も元気そうでなにより」
待ち構えた先生が、俺と島田に座るよう手で促した。俺達は隣同士で腰掛ける。
生徒指導室へ来るのは久しぶりで、先生の恋人になってからはめっきり回数が減った。先生の存在を意識せず、寧ろ疎ましくさえ思っていた夏が遠い昔のように感じる。
今は、誰よりも自分のことを気にかけて欲しいし、構ってもらいたい。果てしない愛しさからどんな感情が生まれるのか、俺自身も未知であった。
「で?何?何の呼び出し?事と場合によってはハッキリ言わせてもらうからね」
「威勢がいいなあ。若さが羨ましいよ」
島田が真面目に啖呵を切る。
男モードの島田は、いつもより幾分か格好よかった。
ともだちにシェアしよう!