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第121話 教科書泥棒20

(熊谷先生語り) 昼間に島田へ危ないことをしないよう釘を刺してから、葵を充電させてもらい、ほくほくで午後の授業を終えた時だった。 教科書泥棒も解決して行くだろうと緩く思っていた矢先に、慌てた葵から電話があったのだ。テンパっていたため、最初は何を言いたいのかさっぱり分からなかった。 学校内では滅多に電話をしてこない葵が連絡をするくらいだから、余程のことだろう。結局、国語が弱い葵の話を理解するまでに15分くらいかかった。 犯人の森田忠文は、1年2組の生徒で俺が現国を担当している。非常に賢い生徒で、成績が良いという印象しかなかった。 葵が俺のことで脅され、教科書のことも兼ねて厳重注意すべきだと判断すると、肝心の森田が学校へ来なくなってしまった。賢い奴だ。俺に捕まると分かっていて休んでいる。 それから三日後、俺は教職員の新年会に参加していた。ここの高校は忘年会ではなく新年会をやるのが恒例だ。そして、暗黙の了解でほぼ全員参加である。 森田の電話とメッセージ攻撃でかなり参っている葵が心配だった。昨日の電話も疲れ切っていて、もろくに話もせず電話口で半分寝ていた。 森田をどうしたらいいものかと頭を抱えているのが現状だ。 「熊谷先生は、年末はご実家へ帰られたんですか?」 またしても、巨乳の山崎先生が隣にいた。話すたびに揺れる胸に目がいって、こっちが照れてしまう。女性というものを全身で表現しているような人だ。計算なのか、おっとりした天然の性格は周りの人を癒す効果もあった。 「大晦日は知り合いと集まって、年始に実家へ帰りましたよ」 「いいですね。年越しパーティーって憧れます」 「まあ、気心知れた集まりですから。それはそれで楽しいですね」 そうすると、青木先生がいつの間にか反対側の隣から話の輪に入ってきた。顔を寄せられたので、突然の近距離にドギマギしてしまう。 「知り合いってどんな方たちなんですか?」 「お、弟のバイト先のオーナーさんとか、友達とかですけど」 「それなら、いいですね。僕はてっきり生徒とかと思いましたよ」 「生徒……ですか?まさか、熊谷先生に限ってそんなこと無いですよ〜。青木先生も人が悪い。生徒って有り得ません。ご冗談を」 山崎先生のナイスフォローに胸を撫で下ろす。 生徒と学校外で個人的に仲良くするのは禁止されている。だが、青木先生の言わんとしていることは分かっていた。 初詣の時、葵と一緒にいるところを見られている。しかも葵は声をかけられていた。 それを間接的に俺に伝えているのだ。 青木先生は何を考えているか全く分からない。どう出てくるか、未知の人種相手に緊張していた。

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