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第122話 教科書泥棒21
(熊谷先生語り)
そして青木先生は、さりげなく山崎先生を教頭へお酌するように促して退席させた。
俺は隅っこで青木先生と二人になる。
みんながそれぞれ話をしているので、他人の話は全く聞いていない。ざわざわと続く喧騒のなかで黙って煙草を吸う。
相手が何か言うのを待っているのは、まるで執行前の囚人のようである。それに青木先生は何を考えているのかさっぱり分からない。
「2年3組の伊藤葵くんとは、いつからそんな関係ですか」
青木先生の島田級の直球な質問に、自ら吸っていた煙草の煙にむせた。
「げほげほっ……そんな関係って……どんなですか」
「だから、恋仲です。恋人。初詣でキスしてたの見ましたよ。まさか、あなたまでお仲間とは思いませんでしたが」
「お仲間?」
「ええ、ゲイ仲間です。違いますか?」
青木先生はまっすぐ俺を見た。
ゲイでなければ、間違いなく女の子を取っ替え引っ換えできる容姿は、憂いな目で俺を見据える。
「違う。いたって俺はノーマルだ」
「じゃあ、どうして伊藤君をそばに置くんです?熊谷先生は、彼より僕と一緒の方が絶対に幸せになれると思いますが。生徒となんて未来がないし、リスクがある。なんなら僕と一度お試しで付き合いませんか?後でどちらかを決めて貰えばいいですからね。損はさせません」
いきなりの告白に目が点になった。
青木先生と付き合う?
いやいやいや、有り得ない。気持ち悪い想像しかできない。
「……まず俺はゲイではない。普段は女の子が好きだし、葵が特別なだけで男は好きにはなれない。だから、あなたの気持ちには応えられないし、あなたに特別な感情を持ち合わせていない」
言い切った俺に対し、青木先生は気味悪いくらい顔色一つ変えなかった。
「…………伊藤君の色気にやられたんですね。あなたも、猪俣先生も。そんな顔をしなくても、誰にも言いませんよ。僕はずっとあなたが好きだったので、今更嫌いにはなれないです。また僕が必要になったら言ってください。いつでも付き合いますから……悲しいですけど」
「……………………」
この人はどこまで知ってるんだ。知りすぎてて怖い。固まっていると、俺の手を握った。
「ずっと触りたかった手です。すみません」
「手なら……構いません……」
「本当ですか?ありがとうございます」
手……ぐらいなら別にいい。
それで青木先生のベクトルが葵に向かなければ安い位だ。
男同士で握り合うのは気持ち悪いが、青木先生みたいな変態の面を隠し持っていそうな人種は要注意なので、下手に刺激しない方が良い。
俺の手をにぎにぎして、青木先生は嬉しそうに笑っている。
まさか飲み会の隅っこのスペースで愛の告白を男同士でしているとは誰も思うまい。
何とも言えない煙が辺りに充満して、喉に違和感を覚えた。
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