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第123話 教科書泥棒22

(熊谷先生語り) 青木先生は納得してくれたのか、お開き後、帰りはすんなり解放してくれた。あの人は変わってるけど悪い人ではないんだろう。 俺をずっと好きだったと、恥ずかしげもなく手を触ってきたので、違う意味でドキドキした。実のところ、取って食われるんじゃないかと思った。 なんとなく一次会で帰ることにして、途中でコンビニへ寄る。 煙草とカップラーメンを買い鼻歌を歌いながらエレベーターを降りると、俺の部屋の前で誰かがうずくまり座っていた。蛍光灯に照らされた真っ青なマフラーが鮮やかに見える。 白いうなじに柔らかい黒髪は、誰だかすぐ分かった。 「葵?」 「…………せんせ……」 「うわっ……」 葵は俺に気付くと勢いよく抱きついてきた。 幻かと思った。会いたい人に会えることは嬉しいもんだと、酔いの覚めた頭でぼんやりと思う。アルコールは帰宅前に体内から消えていた。酔える状況でなかったというのが、正しい表現だ。 「どうした?夜遅いじゃないか。お家の人心配しない?」 「泊まるって言ってきた。一度家に帰ったし大丈夫」 葵は私服を着ていたが、身体が恐ろしく冷たかった。芯から冷えているような、そんな感じがした。 「何かあった?」 俺が聞くと、背中に回った葵の手に力がこもり、これは何かあったと確信する。いつもは意地でも家へ帰すのだが、葵の憔悴ぶりを見て、伝える状況ではないと言葉を飲み込んだ。 何かがあった時に、頼ってもらえる程嬉しいものはない。今日は葵の我儘に付き合おう。 「とりあえず、家に入ろうか。長い時間外で待ってたんだろう。早く温まらないと……」 動かない葵を促しても家へ入ろうとしない。いつまでもここで抱き合ってる訳にはいかず、担ぎあげて部屋に入った。ジタバタしていたが、思ったより持てることに優越感を覚える。 玄関に座らせて靴を脱がせ、されるがままの葵の頬を両手で挟む。 「来るなら電話しろ。今日は早く帰ってきたけど、遅い時はもっと遅くなるんだぞ、こら」 うんうん、と葵は頷いた。 顔が冷たい。鼻なんか真っ赤だ。 「奥に入ろうか。お腹空いただろう?」 「………空いた………」 冷蔵庫に何か入ってたかなと、考えを巡らせる。適当に作って食べさせないと、たぶん泣き出すだろう。手のかかるお姫様は、空腹では何も教えてくれない。

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