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好きだ

酒川の姿を見て 睦月は一気に硬直する 「いま着いたのかー?俺もなんだよ!」 「...」 なぜ!なぜ酒川はここにいる? 今日は定時あがりで参加してる はずじゃないのか!? と睦月は内心焦りが止まらなくなる 「帰り際に総務から内線あってさー」 「...あぁ」 「急ぎで訂正したいミスあっからってさ」 「...うん」 「すぐ終わると思ったんだけど コピー機に用紙詰まってさー」 「...おぉ」 「直ったと思えば今度はインク切れてさ!」 「...えぇ」 「そしたらスキャナーも不調を訴えてくるし 電車は遅延するしで気づけばこの時間!」 「...そうか」 「トラブル続きでもういっそ笑えるよなー」 「...」 そういって白い歯を見せながら にかっと笑む酒川の顔から 睦月は目を離せなくなる 「あー睦月?どした?」 黙りこむ睦月を覗きこむ酒川 好きだ 酒川と顔を合わせる度に 睦月はふと感じる こういう愛想のよさが いけないのだ ほんとにいけすかない 動悸が止まらず まともな返事も出来ず 平静を取り繕うことで必死になる それでも睦月は回らない頭で考える 「な、んでもない」 これ以上酒川に近づいてはいけない 好きだとバレてはいけない

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