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あれから詳しい話をきくために
とある喫茶店で待ち合わせたのは
その週末のことだった
「おぅ睦月 スーツじゃねーって新鮮だな」
先に待ち合わせ場所に付き
窓際の席に腰かけていた睦月に
片手を上げながら声を掛けた三田村
思えば休日に職場の人間と
わざわざ待ち合わせをするなんて
睦月にとって初めてのことかも知れない
「三田村お洒落だな」
返す言葉が見つからず思ったことを
そのまま口にすると三田村が笑った
「なんだよそれ ありがとう
まぁでもお洒落なのは俺じゃなくて
俺の彼氏の方だけどな」
睦月は三田村に驚かされてばかりだった
か、か、彼氏がいるのかっ?
と動揺する睦月の様子を見て
三田村は声をあげて笑った
「ははっ お前ほんっとわかりやすいな」
「こ、こないだ!飲みのとき!
恋人いないっていってたろ!」
「“彼女は”いないっつったの
山田にはゲイだって話してねぇし」
「え?山田にはって?」
「社内でも話してる奴はいるよ」
「えぇっ...?」
それから三田村と色んな話をして
睦月は思うことがあった
これまで睦月は恋愛を理由に
深い人付き合いを避けていた
三田村は睦月と同じ
男で会社員で同性愛者で
それでも自分の話をできるような
良好な関係をきちんと築いている
三田村のノロケ話を聞いて
どこか羨ましいと感じた
睦月は避け続けていた恋愛と
向き合うべきなのかも知れない
酒川と向き合うべきなのかも知れない
静寂の0ではない
静寂に0から
この手で恋をはじめよう
睦月はそう決意した
「そろそろ出るか」
三田村が壁にかかった
時計を見つつそう言った
そして店を出て駅まで歩く帰り道
睦月は強い思いで伝えたのだった
「三田村 相談したいことがある」
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