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微妙な顔

酒川が去った後 口に含んだ豚カツを咀嚼しながら うなだれる睦月を眺める佐々木は やはり微妙な顔をしていた 同性愛に偏見はないつもりだ しかし目の当たりにすると どうにも受け入れ難い 「佐々木と酒川って仲良いな」 定食のすき煮を食べつつそういう睦月に 佐々木は適当な返事をする 「一緒に働いて長いしな」 長く一緒に居ればそれなりに 互いのことを知ることもある 「同期との関係って独特だよな 職場の人って感じでもないし 友達ってほど近くもないし」 佐々木にとって同期は 仕事の仲間という感覚だが 「それは人にもよるんじゃないか 全く関わらない奴もいるだろうし ...恋人になることもあるだろうし」 男女であれば自然と 恋に発展することもある 男女であれば... “恋人”という単語にピクリと反応し 睦月は米粒をつまんだ箸をピタリと止め 「...それもそうか」 とどこか虚しげに返事をする もちろん恋愛が男女間でのみ 成立するわけでは無いと言うことを 佐々木は重々承知している 睦月にとっては酒川に恋することが 自然なことだったのだろう しかし佐々木がいくら頭で理解しても 感覚的な違和感はぬぐえないままだった 昼時の喧騒に沸き立つかもめ食堂に ふたりは妙に静かな空気を漂わせていた

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