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静寂に包まれる

「そんなの利用すりゃいいじゃん」 会社の休憩エリアでコーヒーを片手に 「友達として仲良くなるのは胸が痛む」と 打ち明けた睦月に三田村はケロリと そう言ってのけた ガラス張りの明るいスペースには ソファと観葉植物が並べられている 今いるのは睦月と三田村の二人だけだ 「そこは男女でも男同士でも 変わんないだろ 友達だと思ってた奴に 実は好意を抱かれてたなんてさ」 三田村の強さはこういう所だろうか 睦月のように細かいことを 気にしすぎなしいで前を向ける 「けどさ男女間なら少なからず そういう関係になるかもって 想像するだろ?」 「だったらいっそ告白すれば? どう思ってんのか話さなきゃ 伝わんないのは誰でも同じだ 話してダメになるかも知んないのも どういう関係性でも同じだろ 俺達が向き合わなきゃなんないのは 恋愛ばっかじゃないぞ」 家族にせよ友達にせよ ゲイだと話せばギクシャクする 睦月はどうしてもその懸念が消えなかった 「お前はまだ自分がゲイだって 受け入れられてないんじゃないのか?」 ゲイだと話せば周りにいる誰もが 遠く離れていなくなって 静寂に包まれてしまう そんな想像を睦月は何度も繰り返している 「誰でもいいから話してみろよ 案外受け入れてもらえるもんだぞ」 黙って考え込む睦月を見て 少しの間を置いた後三田村は 手にしていたカフェラテを飲み干す 「んじゃそろそろ行くわ」 と立ち上がる三田村 睦月はコーヒーの缶を握る手を ぼけっと見つめていた ふとそこに三田村の拳が差し出される 手を出せという三田村の視線に 素直にコーヒーを左手に持ち替え 右手のひらを広げると ポトッと個包装された チョコ菓子が落とされた そして黙って去っていく三田村 睦月はこういうところも 三田村の強みだと思う 手のひらに残ったチョコ菓子を見つめ そっと睦月は微笑みを浮かべる その時 誰もいないと思っていた 休憩エリアの奥の方 睦月の肩ほどの高さのある ポトスの影から物音がした しかし直後には不自然なほどの静寂 睦月が見上げた先には 見知った顔の眼鏡の男 山田が立っていた

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