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もうすでに

「...すまない 行けない」 睦月は今一度 山田のことを思い出す さっきの今で 顔を合わせる度胸など 睦月にはないのだ 「んー、やっぱなんかあったのか?」 佐々木の興味があるのかないのか いまいちよく分からない表情を見て 睦月は口を紡いだ 佐々木にどこまで 話すべきかわからず 黙ったままでいると 佐々木が口を開いた 「...あのさ 睦月が他人と距離を置くのは 自分が傷つかないためじゃないよな?」 佐々木の言葉をすぐには理解できず 睦月は黙ったまま続きを待った 「自分じゃなくて 他人を傷つけるのが 怖いんだよな?」 睦月は深い理由を 考えたことなどなかった 近づきすぎず離れすぎず 程よい距離を保つこと それには確かにそんな意味が あったのかも知れない 「それは睦月の優しさだし いいとこだよ けど それじゃ誰も救われないだろ? 睦月はもっと怒ればいい 受け入れてもらえるよう戦えばいい 会社は...少なくとも同期の集まりは もうすでに睦月の居場所なんだぞ?」 睦月は佐々木の言葉に なにひとつ言い返すこともせず 黙って話を聞いていた その頬には涙が伝っている 泣けてくる理由など 睦月には分からなかったが 仲間として認められ 戦えばいいと背を押されることが 睦月の心を温かくすることに 「あぁこれ三田村の あったかさに似てる」 と感じて 涙を拭うこともせず 佐々木と向き合っていた そのとき またも男の声がした 酒川だ

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