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第2話 そのイチ

第2話 「毎度あり~」 校舎の使用されていない教室の片隅に陣取った二人組からにこやかな笑顔で立ち去る男子生徒。 「しっかし、オノレの目はホントに確かやの~」 「まあ、それも素材が良かったからさ」 この二人組、鈴川コウジと相賀ケンタは先の学園祭では自分達の部活動の方を優先させてクラスの劇の仕事は殆んど手伝っていなかった。 しかし、劇の主人公の艶姿を目にしたその時、コウジは相手の生まれた性別を嘆き、ケンタは新たなチャンスを発想した。 かくして、ケンタは劇の当日に望遠でシンデレラの顔のアップは当然のこと、その姿を何枚も盗撮し、悪友のコウジを巻き込んで生写真販売を始めた訳である。 勿論、被写体のチェックに余念がないケンタはシンデレラだけでなく、この学校の様々な美少女の写真も盗撮してファイルにリストアップしていた。 「ミス練芙学院中等部に誰が輝くか?綾見先輩や惣竜に加えてシンデレラのおかげで賭けの売り上げも好調やし・・・」 そのミス・コンテストは勿論その賭けも、学院は当然の事で女子も非公認な完全に男子だけの裏行事であった。 「ホント、あいつには感謝しないとな」 金儲けに目が眩んでいたその二人組は、いつの間にかその教室の中の様子を伺っていた一人の女子生徒の存在に気が付かなかった。 「それならあいつをシンデレラにしたこの私に一番感謝すべきじゃないかしら?」 「どわっ!」 「そ、惣竜!?」 二人の前に乗り込んできたのはアスリンだった。 「さんざん儲けたんだから、何割かはこっちにキャッシュバックして貰いたいところよね」 「はて?一体何の事やら」 「俺達は女のコの写真を見ていろいろ感想を言っていただけ―――」 「とぼけなくてもいいわ。別に文句を言いに来たわけじゃないから」 「じゃあ、何が目的なんだよ」 「だから、さっき言ったでしょ。少しはキャッシュバックして欲しいものだって。それさえ聞いてくれたら後は好きにやってくれて構わないから。ちなみにこの事を知ってる女子は私一人しかいないわ」 二人は顔を見わせると、どうやらあまり事態は剣呑な事にはなりそうもないとわかって安堵した。 「わかった。信じよう。本当に三人だけの秘密だからな。頼むぜ」 「オッケー。ところで取り分の交渉の前に写真のリスト見せて欲しいんだけど」 「何でだよ?」 「だってさ、自分がどれぐらい人気があるか、知りたいし」 実のところ、それが本当の目的だった。 事を知る事になったのはひょんな事からだった。 それは、女子生徒達のトイレ内での事。 「文化祭での二―Aの演劇、すごく良かったよね」 「感動したわ」 「主役が男女入れ替えっていうアイデアもすごかったけど、それを演じた二人がちゃんと役にはまってたもんね」 「シンデレラが猪狩くんで王子様が惣竜さんだっけ。どちらも可愛かったし、カッコ良かったわ」 「それはどうも」 個室の中で外の会話を聞いていたアスリンは劇の評判が良かった事に気を良くしていて、個室を出るとすぐに話していた女子生徒達に応えた。 「わ、噂をすれば・・・」 「惣竜さん・・・」 「主役が男女入れ替えというアイデアは私が出したんだけど、好評のようでとても嬉しいわ」 実のところ、そのアイデアを出したのは裏にもう一つ別の目的があったのだが、それはここで明らかにする必要は無かった。 「あっ、そうなんだ・・・アイデアの発案もそうだったなんて、本当にすごーい」 「これでますます惣竜さんの人気に拍車がかかるわね」 「え?人気って何の事?」 「転校してきて以来、男子の中でどんどん人気が上がってるんだよ、惣竜さん」 「加えて文化祭以来、女子の中でも同じなんだから」 女であるからには、男子に人気があるというのは嬉しい事ではある。前にいた国でも確かにアスリンは男子に人気があって言い寄ってくる者も数多だった。しかし、その頃は今目の前にいる女子生徒達が話すように女子にも人気があるという話は出なかった。 「えーと・・・よくわからないんだけど?」 「だからね、惣竜さんがシンデレラの舞台で演じた王子様があまりにも凛々しくてカッコ良かったから・・・」 「は?もしかしたら、男装した私の姿にって事?」 「そうよ」 ガールズトークで定番の話題はカッコイイ男性の話。例えば芸能人(俳優やアイドル)の誰某がいいとか、スポーツ選手の誰某がいいとか・・・。中には現実的なコもいて、学校の男子生徒だったら誰某があーだこーだ・・・そこで男装したアスリンも疑似男性として話題に上り、評判が広がっていったようだ。 そして話は盛り上がり、人気投票したらどうなるだろうか、となった。 「やっぱり本命は三―Aの凪羅トオル先輩かしら?」 「対抗馬は二―Aの猪狩くんを推したいわね」 「大穴は?」 「どう考えてもいないわよ。ダークホースならこちらの王子様だけど」 しかし、アスリンの言葉は話の盛り上がりに水を差すようなものだった。 「うーん、私はそんなの興味無いんだけど・・・候補に挙がるのは辞退したいトコロね」 「そ、そう・・・」 「大体、そういうランク付けみたいなの、あまり好きじゃないんだ・・・」 ミスコンを否定する人もいる。その主張は間違いとも言い切れない。 アスリンの言葉からはそういう趣旨が読み取れるだろうが、その内心では、本命は置いといて対抗のシンイチに対し自分(の男装)はダークホースという、いわばシンイチよりも自分が下のランクになっているらしいのが許せなかっただけだった。 「でも、どうせ男子だってやってると思うよ」 「本当かどうかわからないんだけど、女子の盗撮写真とかが出回ってるって話、聞いた事無い?」 「と、盗撮ですって!?」 「・・・ま、まさか、トイレとか更衣室の盗撮写真じゃないでしょうね!?」 「だから、本当かどうかはわかんないってば」 真偽の程は定かではないし、それ以上話しても気分が悪くなるだけなのでその話題は打ち切りとなった。 しかし、アスリンはその真偽を確かめるとともに、もし本当だったら自分がどれ位の人気なのかを知りたくなった。 そこでもしそれが事実だとしたら、そういう行為に手を染めるのはどんな人間だろうかと考え、辿り付いた答えが女子にほとんど人気が無くてカメラの扱いに慣れている男子、となった。 そして、まずは自分のクラスにそんな男子がいないか?と調べた結果、ケンタの名前が挙がった訳だ。 「ふーん、どうやら変な写真は撮ってないようね」 「当然だろ!俺はそこまでナンパじゃないぜ」 「そんな写真欲しがる奴がおったら、ワシがパチキかましたるわい!」 今時、硬派を気取るコウジは拳を握って突き出す素振りを見せた。だが、帰国子女のアスリンには今時どころではなく、そもそも硬派・軟派という分類自体を理解できなかったのでスルーした。 「まあいいわ。で、一番人気は誰なの?」 「・・・何だ、それが知りたかった訳か」 「悪い?」 「いやいや、かめへんかめへんて。オナゴなんてそんな可愛いもんや。それに、どうせミスコンを否定してるんは、間違っても出られへんブサイクばっかりやろうし」 コウジの言葉は何となくその全ては肯定できそうには無かったが、アスリンは無視した。 「いいから言いなさいよ」 「まあ、写真の現在の売り上げ順位で言うと、一位が綾見先輩、二位がシンデレラ、三位が惣竜だな」 「な・・・なんですってぇっ!?」 アスリンは思わず不満顔になって大声を出して怒りを露わにした。 「お、大声出すなって!」 「お、おい、怒るなよ。仕方ないだろ、綾見先輩は去年の優勝者だし・・・」 その一位である三―Aの綾見レイナは生徒会長を務めるだけでなく、テストの成績も常に学年一位をキープし続ける才媛であった。アスリンも講堂の壇上で生徒会長としての挨拶をする彼女の姿を見た事はあり、確かに美少女ではあった。 しかし、アスリンの逆鱗に触れたのは、シンイチが女装したシンデレラが自分よりも上のランクにいるという事実だった。 「勿論、シンデレラが加わったのは文化祭の後だけど、あっという間に惣竜を追い抜いて行ったんだ。それにさ、猪狩にシンデレラをやらせようって言い出したのは惣竜だったんだし、仕方ないじゃんか」 「う・・・うるさいわね、そんな事わかってるわよ!」 「だから、声が大きいって言うとるやろ!」 「コウジ、お前も声が大きいよ!」 「何やて?今のケンタの声だっておんなじぐらいやないか!」 等と間抜けな言い合いを始めた二人を、アスリンは机をバン!と叩いて黙らせた。 「・・・あんた達・・・やっぱりキャッシュバックの話は無しでいいわ・・・その代り、このシンデレラの写真は二度と売らないように」 アスリンのその目からの冷たい視線を浴びて二人は一瞬慄いた。 「いい?これは命令よ」 「め、命令?」 「な、何言ってんだよ!?何で俺達がお前の命令なんか聞かなきゃいけないんだよ!」 「そこを言うなら命令やのうてお願いやろが!全く、これだから帰国子女ってーのは―」 「ふーん、そう・・・だったら、あんたたちのやってる事を先生に報告するまでよ」 「な、何いっ!?」 「さっき、好きにしていいって言ってたじゃんかよ!」 「気が変わったのよ。いい?私の命令を聞いてシンデレラの写真を売るのをやめて売り上げが落ちても利益を得るのと、学校中に知れ渡って・・・もしかしたら退学になるかもね?そうなって全てを失うのとどっちがマシか、よく考えてみる事ね」 そう言い残してアスリンはその教室を後にした。 どう考えても、あの二人にはアスリンの言葉の前者しか選択の余地は無い。時間がたてば自分の写真の方が売れ行きが多くなるだろう。 ミス練芙学園と言う行事には何の興味も無い。生徒会長の綾見レイナが二年連続で優勝する事になってもなんとも思わない。 唯一つ、シンデレラに自分が負けていたという事実だけが我慢できなかった。 “シンイチなんて、女装マゾのくせに・・・・・・・・・絶対許さない!!” “あんな奴に一瞬でも気を許した私が愚かだった・・・女装趣味を理解してやるだなんて、とんだ甘ちゃんだった・・・” あの夜のサトミとシンイチの情事に気付いた時の言い様の無い昏い思いが湧き上がって、アスリンの心と頭の中を満たしていった。 “・・・もう、ペットだなんて甘い事はやめる!あいつを私の奴隷にしてやる!何が何でも!” そのためにはどうすればいいか・・・アスリンはイツコに相談する事にした。サトミと仲直りした際、自分の心の中の思いを見事言い当てたイツコならば、今の自分の思いにも理解してくれる、と思ったのだ。それに、サヤに元からレズっ気があったとは言え、そこから発展して相思相愛ではあるものの主従関係にもなっていると言う事で、その手管を教えて貰えば大いに役立つ気がした。 「サトミではなく、私に相談に来たのは大正解だったわよ」 保健室に入ってきたアスリンを一目見て「何か嫌な事でもあったの?」と訊いてきたイツコにアスリンは例の件を打ち明けた。そして自分が今は後悔している事を、そしてこの後どうしたいかについても正直に話したのだ。 「サトミはショタコンなだけあって、身体は大人でも心は未成熟だからね。いいわ、具体的に一つ一つ、アドヴァイスしていきましょう。場合によっては積極的に協力させて貰うわ」 「有難う御座います、イツコ先生」 その日の夕方、アスリンはそれとなく話題に文化祭の評判を出した。 「主役が男女入れ替えだったせいで、シンイチも私も人気が急上昇なんだって」 「何の人気?」 「私の演じた王子様がカッコイイって女子の間で言われてて、シンイチもシンデレラが可愛かったって男子の間で―――」 「いや、別に男から可愛いって言われても嬉しくは・・・アスリンは嬉しいの?」 「嬉しいわよ。だって、嫌われるよりはいいじゃない」 同性からちやほやされる、それは所謂同性愛者みたいな関係にハッテンする事も想定される。シンイチはやっと女顔のコンプレックスを払拭できたのに、同性にそんな気持ちを持たれるのは御免蒙りたかった。だが、イツコとサヤという同性愛者を身近に知っているアスリンはそんな嫌悪感はなかった。万が一、自分に同性が告白してきたとしても、自分は同性愛者ではないのでお断り―――お友達としてなら喜んで―――という返事をすればいいだけの話だからだ。 「まあ、確かにアスリンの王子様は凛々しかったけど、それにも増してシンちゃんのシンデレラはチョー可愛かったわん。あー、写真撮っとくべきだった」 勿論、劇を終えての役者・裏方のクラスメート全員揃っての記念写真は撮影してある事はあるのだが、ここでサトミが言ってるのは勿論シンデレラだけのスナップ写真の事だった。 「もう、それはちょっとカンベンして下さい」 シンイチはまたぞろサトミのビョーキの虫が騒ぎだすかもしれないと予感したが、怒ると言うまでは行かずに苦笑い。それを見ていたアスリンは自信を持った。 〝シンイチくんは本当は女装を嫌がっていないわ。いえ、サトミが望むならむしろ積極的に女装を受け入れる筈よ〟 イツコはそう言っていた。それを確かめる為にこの話題を切り出し、上手い事サトミの不用意な発言を引き出せた。結果はアスリンの望むものだった。 「だったら、また女装してあげたら?サトミも喜ぶわよ」 「なっ!?何をアスリン、言い出すんだよ、急に・・・」 アスリンの突然の発言にシンイチはパニクってしどろもどろ。サトミが喜ぶ云々の部分は自分もネガティブではないので、それをアスリンに知られたくないという焦りもあって言葉の順番が乱れまくり。 「ドゥフ・・・ねえ、シンちゃ~ん・・・」 「ご、ごちそうさまでしたっ」 サトミがだらしない笑みを浮かべてシンイチに向けると、シンイチはすぐに席を立って自室に逃げて行った。 「もう、つれないんだから・・・」 サトミは俯いて両の人差指をつっつんこさせる。 「ねえ、サトミ。そんなにシンデレラの写真が欲しい?」 「欲しいわっ!もしかして、アスリンは持ってるってこと?」 途端にサトミは瞳を輝かせてアスリンに迫る。 「ふっふーん・・・条件次第では無償で提供しても構わないと言ったら?」 意味有り気な顔で返すとさらにサトミは食いついて・・・と言う事はなく、逆に浮かれ気分の先程の顔とは違って真面目な顔つきになった。 「アスリン、何か企んでいるわね?」 「もっとあいつの女装姿を楽しみたくない?」 「・・・どう言う事かしら?」 「一日中、毎日あいつの女装姿を楽しめる方法を思いついたのよ」 「それは実に興味ある話ね。聞かせてくれる?」 「簡単な事よ。弱みを握ればいいのよ」 「弱み?それってどう言う事?」 「鈍いわねぇ・・・女装姿の、それもシンデレラみたいのじゃなくてランジェリーを着て、ペニスをフル勃起させているような、恥ずかしくて他人には見せられない写真を撮るの。それを使って他人に見られたくなかったら・・・って脅せば何でも言う事に従うわ。どう?」 「ア、アスリン・・・何て事言うのよ!そんな犯罪めいた事を・・・」 「でも、あいつにいつも女装させたいでしょ?女装した可愛い姿をいつまでも拝んでいたいとか、あの夜に言ってたじゃない」 「そ、そうだけど・・・」 イツコ宅でパーティーをした時、酒(アスリンはノンアルコールのシャンパン)の勢いもあってか、いろいろとシンイチをイジメてみたいと三人で語り合ったのも事実である。一人だけ素面だったアスリンはイツコとサトミの二人の大人の邪な欲望をしかと耳にしていた。 「どうする?シンイチの女装姿をもうこの先ずっと見れなくなるか、ずっと見ていられるか・・・サトミに強制はしないわ。じっくり考えて、しっかり決めて」 そう告げて、アスリンも自室へ戻っていった。 選択肢は二つ。サトミが後者を選べば文句なしだが、万一前者を選んだとしてもイツコの協力があれば事は成る。しかし、サトミの積極的な協力があれば事はより楽に、スムーズに進む。 そして同じ事をサトミも考えていた。 “シンちゃんとアスカが結び付いて欲しいけれど・・・そんな歪な形でいいのかしら?それにもし、私が断ったとしたら・・・もしかしたらアスリンはイツコとよからぬ事を・・・でも、私が望む形にしたらシンちゃんに嫌な想いは・・・” 自室で思い悩んだサトミはついに決心した。 その週末の金曜日の夜、サトミはシンイチの部屋に行った。 「シンちゃん、土日は何か予定入ってる?」 「いいえ、別に何も」 「よかった・・・はい、これ」 サトミは嬉しそうな笑顔を作ると、後ろ手に持っていた紙袋をシンイチに差し出した。 「・・・サトミさん?」 「今夜から日曜の夜まで、この家は男子禁制にする事にしました。だから、シンちゃんもそれを着て女のコになって頂戴」 「ちょ・・・な、何ですか、そのいきなりな話は!?」 「異論は一切受け付けないわ」 「サトミさん!」 「勿論、この私がお願いしてるんだもの、聞いてくれるわよね?」 「で、でも・・・もう僕は・・・」 「勿論、夜にはちゃんとお礼をたっぷりするから、ね?」 躊躇うシンイチにサトミは意味深なセリフで軽くウィンクした。その言葉と仕種の意味する事を察したシンイチは、顔を真っ赤に火照らせて思わず首を縦に振ってしまった。 「ありがとう。明日の夜は出血大サービスしちゃうから期待しててねん」 サトミは破顔したまま、投げキッスをシンイチに飛ばすとウキウキ気分で退室していった。 “出血・・・大サービスって・・・” サトミとのあんな事やこんな事を想像したシンイチはそれこそ鼻血が出る程頭に血が上ってしまった。 翌朝。 「おはよ・・・」 ベッドから起き出してきたアスリンはあくびを片手で隠しながら先に起きていた者に挨拶したところで。 「・・・だ、誰っ!?」 ダイニングのテーブルでコーヒーを入れていたのはサトミではなくて私立練芙学院の制服を着た見知らぬ少女。 「あ・・・その・・・お、お早う・・・」 その声でアスリンはすぐに反応した。 「ウソッ!?シンイチなの!?」 「ご名答~。やっぱり髪型替えればすぐには判らないようだわね」 リビングからサトミが返事をしてやってきた。サトミが言うとおり、シンイチは栗毛色のウィッグを付けてそれをポニーテールにしていた。 「どう?やっぱり何を着せても似合ってるでしょ?」 「ちょっと、それ・・・まさか、私の・・・」 「違うわよ。ちゃんと別に買ってきたのよ」 「ふーん・・・」 アスリンはシンイチの姿をつま先から頭のてっぺんまでじっくり観察してから溜息をついた。 「はぁ・・・やっぱり本当に女のコにしか見えないじゃないの・・・まあ、いいけど」 と納得する振りをしたものの、アスリンの心の中ではまた昏い思いが渦巻き始めた。 “何よ、こいつ・・・本当に女のコになりきって・・・私はあんたなんか絶対許さないんだからね。この身に受けた屈辱は何倍にもして返してやる!” しかし、そんな思いをおくびにも出さず、アスリンは平静を保った。 「じゃあ、僕は朝食を作るから、二人は顔を洗ってきて」 「はーい」 サトミはアスリンを視線で誘って二人して洗面所へ向かった。 「・・・前にも言ったけど、お昼からって話だったでしょ!」 「いいじゃないの、そんな事」 「よくないわよ。こっちだって心の準備とかいろいろあるんだから」 「だって、一刻も早くシンちゃんの女装姿を見たかったんだもの、ドゥフ」 「・・・とにもう、あまり驚かせないでよね」 「ゴミンゴミン」 まあ、アスリンも少々口をとがらせているが本気では怒っておらず、怒られているサトミの方もそれがわかってるのか適当な謝り方だった。 「・・・で、どうなの?見た感じでは私は判らなかったんだけど・・・あいつ、またフル勃起してるの?」 「・・・さて、どうでしょう?」 「えー、ちょっと、教えてよー。どうせもう、私が起きてくる前に確認したんでしょ?」 「ムフフ、それは秘密よん。どうしても知りたければ、自分の目で確かめてみたら?」 「え?それって、どうやって・・・まさか、スカートめくりでもしろとか言うんじゃ・・・」 「どうかしらね?どうしても知りたかったら、どうすればいいか、自分でじっくり考えてしっかり決めなさい」 サトミはそう言い残して先に事を済まして洗面所を出て行った。 “うーん・・・どうしよう・・・” まだシンイチはサトミのお願いで女装をしているに過ぎない。サトミからならまだしも、自分からの命令は撥ね付けられる可能性が大である。 前回の時はシンイチは布地の薄いスリップドレスを着ていたので、その股間の高まりを隠し通す事はできなかったので、自分でも初見で違和感として気づく事はできた。だが、今回は学校の制服。純白のセーラー服の下はパット入りのブラをしているようで微かに胸の膨らみが見て取れるが、紺のプリーツスカートで覆われた下腹部はぱっと見では何の違和感も感じられなかった。 “ちょっときつめのパンティを穿いてるのかしら?それで締め付ければ突っ張るのを誤魔化せるとか・・・” アスリンは頭の中で想像してみた。ゴムが少し緩いものならば、フル勃起したペニスは堂々とパンティの前を突っ張らせてしまうだろう。逆に、ゴムがきついものならば、フル勃起したペニスは突っ張る事で逆に苦しくなってしまい、突っ張らせなくて済むようにできるだけ下腹部に密着するような形でパンティの中に収納するだろう。 “・・・どっちにしても、やっぱりスカートをまくって中を見てからでないと確認は不可能だわね・・・すると、どうやってスカートをまくらせるか、ね・・・” そして、アスリンは妙手を思いついた。 アスリンがダイニングに戻ると、ちょうど朝食の支度が終わったところらしく、シンイチがエプロンを外すところだった。 「あ、アスリン、ちょうど朝食の準備終わったところだよ」 「ふむ、いつ見ても美味しそう・・・あんた、料理の才能あるわね」 こんがり焼いたトーストはしっかりきつね色。マーガリンを付けるもよし、マーマレードを付けるもよし、ブルーベリージャムもちゃんとある。スープは豆腐とタマネギのスライスが入った味噌味(御御御付けとも言う)。カリカリになるまで焼いたベーコンは大量のフレッシュレタスを巻いて食べる。サラダはマッシュポテトに小さく刻んだキュウリとキャベツとリンゴが入ってとてもヘルシー。 と、二人を見ていたサトミは口を挟んだ。 「あー、二人ともちょっと待ちなさい」 「「何?」」 「シンちゃん、あなたは今は女のコなのだから、ちゃんと口調を変えなさい。シンデレラの稽古で覚えてるでしょ?」 「あ・・・はい、わかりました」 「それからアスリンも、シンちゃんを女のコとして扱う事。あんた、なんて言い方はだめよ」 「それはわかるけど、じゃあ、何て呼べばいいの?またシンデレラ、と言うのもなんか合わないし・・・」 で、どう呼ぶべきか、二人は既に考えてあったのだが。 「・・・それなら、ユイコ、って呼んでください」 シンイチが自分から答えたので思わずサトミとアスリンの二人はきょとんとしてしまった。 「・・・?二人ともどうしたの?」 「い、いや、別に・・・その名前、どこから出てきたの?」 アスリンには全くわからないが、シンイチの保護者の手前、サトミが知らない筈が無い。 「・・・それは、確かあなたのお母様のお名前ね」 「はい・・・私を生んですぐに死んでしまったので顔も覚えていませんけど・・・」 シンイチはサトミに言われたせいか、すぐにシンデレラの時の口調になっている。 「そうなんだ・・・うん、わかった。そんな思い入れのある名前なら、それでいくわ」 「じゃあ、アスリンも座って。ユイコちゃんが作ってくれた朝食をいただきましょう」 「ちょっとー、何で私は呼び捨てでこのコはちゃん付けなのよ?」 「アスリンと私はずっと前からの知り合いであっちにいる時は名前で呼び合っていたからよ。でも、ユイコちゃんはそうじゃないでしょ?」 「それは、そうだけどさ・・・まあ、いいか。それじゃあ、頂きまーす」 こうして女三人(と言っても一人は偽女だが)の奇妙な約二日間は始まった。 と言っても、結局家事の大半をシンイチ改めユイコが担当するのは依然と同じだった。朝昼晩の食事の準備・片付け、食材を始め日用雑貨の買い出し、リビング・ダイニング・キッチン・バスルーム・洗面所その他共同スペースの掃除・・・サトミとアスリンがする事と言えば自室の掃除と自分の分の洗濯ぐらいだった。 てきぱきとこなしていくユイコに対し、サトミとアスリンの二人は家事の能力はひどく劣るらしく、ちょっとやっては休憩したり何か別の事で寛ぎ始めたり・・・。 「はぁ・・・シンちゃん、じゃなくてユイコちゃんて本当に家事万能ね」 「そうですか?自分では楽しいからやってるんですけど」 「もし私が男だったら、きっとユイコちゃんをお嫁に貰いたいところだわ」 「本当ですか?一応褒め言葉と思って受け取ります」 などとにこやかに話すサトミとユイコを見てアスリンは何となく面白くなさそう。やはり、ユイコより自分の方がサトミとは親しい間柄の筈なのに、家事の点においては今のユイコ程サトミに信頼されていなさそうだと自覚しているからだった。 “相手は男なのよ?自分が男になったら男同士になっちゃうじゃないの!ったく、サトミったらわかってないわね” と心の中でツッコミを入れるアスリンだが、そんな事をしても気は晴れない。そこで・・・。 ユイコの家事が一段落着いた頃合いを見計らって朝から考えていた事を実行する事にした。 「・・・うーん・・・やっぱり、何か違うのよね・・・」 アスリンに言われて何の事かわからずユイコはきょとんとしている。 「何の事?」 「そのスカートの穿き方よ。今時、オリジナルの長さにしているコなんてどこにもいないわよ」 「長さ?これって長さを調整できる仕組みって無かったと思うけど・・・?」 「ちょっと待ってなさい」 そう言って自室に行って戻ってきたアスリンは制服に着替えていた。 「スカートの上のゴムベルト部分を上手く使うのよ。よく見てなさい」 そこでアスリンは実演して見せた。制服のゴムベルト部分をそのまま腰の全周に渡って外側に折り返しそのまま上に持ち上げる。さらにそれを何回か繰り返す。つまり外側に織り返す長さを調整する事によって、スカートそのものの外の長さも変える事ができるし、外側に折り返す事でプリーツも乱れる事無く綺麗に整えられる訳だ。そして最後に折り返していた部分をセーラー服の上衣に隠れるように上手く上にずらせば完成だ。 「と、こうやって調整するんだけど・・・ちょっと、どこ見てるのよ?こっち見ないとわからないでしょ!」 アスリンが振り向くとユイコは明後日の方を向いてモジモジしていた。というのも、アスリンがユイコに背を向けて実演し始めた時、スカートの裾が少し捲れて下に穿いていたピンクのパンティのお尻側が見えてしまったからだった。 「ちゃんと見てたの?」 「え、えっと、その・・・さっき、お尻が見えちゃったから・・・」 「なっ!?」 アスリンは慌ててスカートの上から臀部を押さえた。 「だ、だから、ずっと見ていたらいけないと思って・・・」 それは、確かにシンイチとしては仕方ない反応だったろう。もし黙って見ていてそれがばれたらアスリンにまた罵詈雑言を浴びるのがオチだったからだ。 しかし、今のシンイチは男のコではなくて女のコのユイコという設定。そのユイコのしどろもどろの言い訳を聞いてアスリンは少々考えを変えた。 「えーと、あのね・・・ユイコは男のコじゃなくて女のコでしょ?私のパンティが見えたからってその反応はおかしくない?」 「え?、で、でも・・・」 「異性なら嫌だけど、同性ならパンティを見られたって別に大した事ないわよ」 「・・・そうなの?」 「べ、別に、ユイコに見せたいって言ってるのとは違うからねっ!」 少々怯え気味のユイコの表情が和らいだのを見て、思わずツンデレみたいな反応を見せたアスリン。今後の壮大な?計画の為にはパンティを今日見られてしまう事になっても構わない、という思いは事実だが、積極的に見せて変な勘違いをされるという事態も困る訳だ。 「う、うん、それはわかってるわ・・・」 「・・・じゃあ、もう一回やって見せるから、ちゃんと見てなさい」 アスリンはもう一度最初から手本を見せた。 「どう、わかった?」 「う、うん・・・」 「じゃあ、今度はユイコがやってみて」 「え、こ、ここで?」 「何を恥ずかしがってるのよ?さっき言ったでしょ、ユイコは女のコだって。いい加減にその男のコみたいな反応はやめなさいよ。」 「う、うん・・・」 ユイコは見よう見まねでスカートを短くした。 「・・・これでいい?」 オリジナルだとスカートの裾は膝丈だが、ユイコのスカートは膝から5cmぐらいにの位置まで高くなっただけだった。アスリンから比べればまだ5cmぐらいは違うが、それよりも折り込んだベルト部分が見えてしまっていた。 「ちょっと待って。ベルトの位置、低いみたいね」 アスリンはユイコの前に歩み寄ると膝立ちになってスカートを上にずらそうとした。 「ちょ、ちょっと、アスリンやめてっ!」 ユイコは慌ててバックステップで離れる。 「女のコ同士なのに何を恥ずかしがってるのよ?スカートの位置を正しくしようとしただけなのに」 「だって、今スカートをめくられたら・・・」 つい、本音を漏らしてしまったユイコ。今は、という言葉を使ったならば、今じゃなければ問題無いという事になる。では、今は何が問題なのか? アスリンは元々何を目的としてユイコのスカートを短くしようとしていたのか? ユイコの言葉からアスリンはユイコが今抱えている問題に気付いた。 “・・・やっぱりフル勃起してたみたいね・・・” そんな恥ずかしい状態だからもしかしたらばれるかもしれないと恐れてユイコはパンティを見られる事を嫌がった訳だ。 「・・・まあ、いいわ。これぐらいの短さが流行りの着こなしなんだけど、それに同調するか否かは個人の感性だものね」 アスリンの場合だとスカートの裾は膝上10cm。ただ、体格というものも個人差があるので、膝上10cmだからと言ってスカートの短さが同じになる訳では無いが。 「ところでさ、今ユイコが穿いてるパンティって、サトミのものでしょ?」 「そうだけど?」 「サトミのパンティのどういうところが好きなの?レース遣いとかが大人っぽいとか、そういう事かしら?」 さりげなく、ユイコに答えにくそうな質問をするアスリン。サトミに恋心を持っているからこそ、彼女のパンティを穿く事で性的に興奮してシンイチがペニスを勃起させてしまっている事ぐらい、とっくにお見通しだった。 「え・・・えっと、その・・・デザインとかがどうとかは、あまり良くはわからないんだけど・・・何て言うか・・・優しく包んでくれる、みたいな・・・」 ユイコは、何を優しく包んでいるのかまでは明白に言葉には出さなかったが、ナニを優しく包んでいるのだろうという事はアスリンには明白だった。 「そっか・・・でも、ユイコももう花の乙女なんだから、ちゃんと自分用のパンティは揃えないといけないわ。機会が有ったらいつでも相談してね。いろいろとアドバイスしてあげるから」 「うん。ありがとう」 アスリンの言葉は親切心から出たように思えたのでユイコはそう答えたが、勿論アスリンの本心は親切とは全くかけ離れたところにあった。 「ただね・・・優しく包んでくれる、て言ったけど本当かしら?実のところ、今は締め付けられてるのではなくて?」 「なっ!?」 知られたくない事がばれてしまっているとわかってユイコは顔を真っ赤にしながら不満そうにアスリンに問うた。 「それを・・・それが知りたくてスカートをまくろうとした訳!?」 「ちょっと、落ち着きなさいよ、はしたない。私は何もそれが悪いなんて一言も言ってないでしょ?ユイコ・・・というよりもユイコの中の人って言った方がいいわね。その、中の人がそういう趣味だって事は知ってるし、それは理解しているんだから」 それは本来だったら勘違いの筈だったのだが、現時点でユイコの中の人の心の中ではサトミの為ならという条件で認めてしまってもいた。 「一応訊くけど、もしかして今、なんとなくもどかしさを感じているんじゃない?」 ユイコは赤い顔のままコクリと小さく頷いた。 「やっぱりね・・・じゃあ、最初のアドバイスよ。締め付けるのは身体のラインを補整する場合のみ。そうでなければ、ゆったり目の方が身体にいいの。覚えといてね」 「う、うん・・・」 「じゃあね」 アスリンは朝からの疑問が解決したので笑顔でユイコの部屋を出て行ったが、ユイコはアスリンが自分に優しくしてくれるので何となく勘違いしていた。 その日の夕食は何故かピザをデリバリーする事になった。ピザを食べたいと言い出したのはアスリン。 「まあ、別にいいけど」 ユイコとしては夕食を作る手間が省けるのでちょっとラッキーと言う感じだったが、それだけでは終わらなかった。 何と、ピザ屋との応対をさせられたのは当然と言うべきかユイコであった。 「どうも、ご苦労様です」 「またよろしくお願いしまーす」 ピザ屋の店員は「こんな可愛いコが男のコの筈がない!」とばかりにユイコの実態には全く気が付かなかった。それほど、ユイコが女のコしていた訳だが、それでもユイコ自身は微笑の裏で内心緊張しまくっていた。 “良かった・・・気づかれずに済んだみたい・・・” ほっとしたユイコは受け取ったピザをリビングで待っているアスリンとサトミのところに持って行った。 「ピザが来ましたよ」 「どうだった?全然大丈夫だったでしょ?」 ピザの事はほっといてピザ屋の店員の反応がどうだったかを問いかけるサトミ。 「まあ、そうですけど・・・でも、私はずっとドキドキしていたんですからね!」 「ゴミンゴミン。でも、ちゃんと女のコで通るとわかって嬉しいんじゃない?」 「・・・はぁ・・・もういいです・・・」 サトミのニヨニヨ顔に呆れてユイコは小さく溜息をついた。 「ところで、何で今日はピザにしたんですか?」 「それはね、アスリンの要望だからよ」 「ふーん・・・ところでアスリンは?」 さっきまでリビングでTVを見ていた筈が、いつの間にか姿が見えない。 「私とアスリンがまだ向こうにいた頃、誕生日は決まってピザを注文する事にしていたのよ」 「誕生日って、アスリンの誕生日は今日だったんですか!?」 「そのとおりよ」 「お、主賓の登場ね」 背後から声がして振り向いた瞬間、ユイコはアスリンの姿を見て大慌て。 「ア、アスリン、何て恰好してるのっ!?」 ユイコが顔を赤くして慌てて顔を戻したのも然も有りなん。アスリンは何と上はブラジャーに下はパンティだけのランジェリースタイルだったのだ。 「もう14歳だしさー、今夜はアダルトチックにランジェリー・パーティーみたいなスタイルでいこうと思うんだ」 ピンクのブラとパンティはやはりセットのもののようで豪奢なレースで飾られたブランド物の高級品だった。 「なるほどー、うん、いいんじゃない?それなら私もそれらしくしないとね」 サトミはソファから立ち上がると自室へ向かった。そしてものの1分も経たないうちに、アスリンと同様にランジェリースタイルで戻ってきた。サトミのブラとパンティの色はサックスで統一され、やはりこれも光沢のあるシルクを使用したブランド物の高級品。 「サッ、サトミさんまで、何やってるんですかっ!?」 ユイコはとうとう両手で顔を覆ってしまった。 「言ったでしょ?今日はアスリンの誕生日。アスリンがランジェリー・パーティをしたいって言ってるんだから、私達も合わせないとね」 「なっ!?わ、私達もって・・・私もですかっ!?」 「「ええ」」 大慌てのユイコに対し、アスリンとサトミは平然として答える。 「無理無理無理、絶対無理ですって!」 「どうしてよ?」 「だって・・・」 「その前にさ・・・何でユイコは恥ずかしがってる訳?」 「え、えっと、それは・・・」 「何度も言ってるじゃない、今のあなたは女のコなんだって。さっきもピザ屋さんに女のコとして応対していたじゃないの」 「それはそうですけど・・・」 「同じ女のコどうし、今夜はハメを外して楽しみましょ」 「で、でも、やっぱり恥ずかしいし・・・」 「だから、何が恥ずかしいの~?」 「正直にお姉さんに言ってごらん?」 なんとなくアスリンは楽しそうに、サトミは思いっきり邪笑で訊いてくるのでユイコは気づいた。 「ふ、二人とも何を笑って・・・私を笑いものにする気なんでしょ!」 ユイコが思わず気色ばんで声を荒げたので、サトミは邪笑から一転真面目な顔になって答えた。 「ごめん、ちょっと悪ノリしちゃったわね・・・えーと、ユイコちゃんがなぜ恥ずかしいのかは勿論わかってるわ。ユイコちゃん、オチン・・・じゃなくて、クリトリスがとっても大きいから、下着姿になったらそこが目立っちゃうのが気になってるんでしょ?」 思わずオチンチンと言いかけて慌ててクリトリスと言い直し、あくまでも相手を男のコではなく女のコとして扱おうとするサトミ。 ユイコは恥ずかしくて言葉で同意できずに小さく頷いて肯定する。 「でもね、人はみな違うものなのよ?背が高い人もいれば低いコもいるし、胸が大きい人もいれば小さいコもいるわ」 「そこでいちいち私のほうを見ないでくれるかしら?」 「目が黒い人もいれば、目が青いコもいる。でも、違いがあるからって相手を馬鹿にしたりしてはいけないわ。私の知ってる男のコは女装趣味という特殊な性癖を持ってるけど、それでもアスリンはその男のコの事を毛嫌いせずに理解してくれているし、私も好きよ」 「今のサトミのセリフに激しく同意」 「だから、ユイコちゃんを私もアスリンも馬鹿にしたりしない。ちゃんと理解するつもりよ」 サトミはその言葉に嘘偽りは無いと言わんばかりにユイコの身体をそっと抱きしめた。 「サトミさん・・・」 ユイコはサトミの言葉と心に暖かさを感じ、思わず目を潤ませた。 「だから・・・恥ずかしいかもしれないけど、そこは少し我慢して、ユイコちゃんも心を開いてくれないかしら?」 「・・・はい・・・」 ユイコは先ほどとは違ってはっきりと言葉にして、しっかりと肯いて答えた。 自分を理解すると言った二人の言葉を信じて、思い切って自分をさらけ出してみよう、という気持ちになったからだ。 「えっと、じゃあ、自分の部屋で脱いできます」 サトミが腕を外すと、ユイコは自室に向かった。 “流石、サトミね。教師だけあって、言葉に説得力があるじゃない” “・・・我ながら、ちゃんとした言葉が出てきてほっとしたわ” しかし、イツコがその場にいたならば、サトミにその言葉を出させた真摯な思いは、実のところ女装美少年がランジェリー姿になって興奮してフル勃起させたペニスでパンティの前を突っ張らせているという痴態を何としてでも拝みたいという邪しまなものが根底にあると見破っていただろう。 とにかく、まずは第二段階への移行は成功しそうだと確信したサトミとアスリンの二人は思わず互いの顔を見合った。 「・・・楽しみね」 「・・・そうね」

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