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第3話 そのサン

中庭に出たシンイチはそこからまっすぐ伸びている花崗岩の飛び石のプレートを歩いて行った。屋外だが一応そこは有る理由から上穿きでも歩いて良い事になっていた。その理由とは、そこを通って向かう目的地の入り口及び校舎の出入り口とに置いてある足拭きマットで汚れを落とせばよい、と言う事だった。 その目的地、生徒会役員会の本拠地は、中庭の中にある少々古くなってはいるがまだまだ使える小さなプレハブ小屋だった。 そこに辿りつくと、シンイチより先にアスリンが来ていてそのプレハブ小屋を凝視していた。 「アスリン、どうしたの?生徒会役員会に何か用?」 「あら、シンイチも?」 「そうだけど?」 「これはグッド・タイミングね」 「何が?」 「あの問題の件でしょ?だったら一緒に顔を出した方がより効果があると思って」 「あ、成程ね」 そして、二人はプレハブ小屋の引き戸を開いて中に入った。 一階は殆どが過去の資料や雑物などが乱雑に置かれている倉庫、二階が生徒会役員としての仕事を行う執務室だった。 二階へ向かう階段の踊り場には何故か場違いな?ステンドグラスの大きなシールが壁のガラスに貼られて色々な色の光の絵を床に映し出していた。その絵は、青の愚者と紫の戦士と赤の聖者が白い巨大な女神を見上げているというものだった。 だが、アスリン達はそれには何も興味を示さず、二階へと上がって生徒会役員室のドアをノックした。 「どうぞ」 「失礼しまーす」 ドアを開けて入ると、中には生徒会役員が勢揃いしていた。生徒会長の綾見レイナ(3年)、副会長の凪羅トオル(3年)、書記の渡辺ヒロキ(2年)、会計の森本モモコ(2年)、それと役員ではないがレイナに気が有るので自ら言い出してアシスタント―――要するにパシリ―――正確に言えば使いっ走り―――に過ぎない―――を買って出た金子シゲキ(1年)の五人である。 「やあ、シンイチくん、よく来てくれたね」 トオルがにこやかに笑って立ち上がって出迎えてくれた。その一方で、レイナは一瞬驚いた表情を浮かべたがすぐに何事も無かったかのように手元の書類に目を向けた。 「あの、ちょっと相談したい事が有ってきたんですが・・・忙しいのならまた後でも・・・」 「そんな事はないよ。僕たちの仕事よりも一般生徒の意見を聞く方が大事な事さ。そうだ、金子くん、二人の為に何か飲み物買って来てくれないか?」 「あ、はい。何にします?」 「あ、いえ、別にそこまでして貰わなくても・・・」 「遠慮はいらないよ。折角訪ねて来てくれたお客さんに何の持て成しもしない訳にはいかないし、気にしないでくれ給え」 “・・・何か、初対面なのに妙に馴れ馴れしい態度ね、この男・・・これが人気の理由な訳?” トオルのフレンドリーな態度に何となく訝し気になったアスリンだが、シンイチとトオルは別にこれが初対面ではない事をすっかり忘れ去っていた。 「それじゃあ、お言葉に甘えて・・・えーと、ファンCオレンジを・・・アスリンは?」 「私はアップル」 「わかりました。じゃあ・・・」 「待って。私が行ってくるわ」 シゲキが出ようとする前に何故かレイナがそれを制するように立ち上がった。 「レイナさん?」「会長?」 モモコもヒロキもまさかのレイナの言葉に不思議そうな顔になった。だが、レイナ自身が言い出した事なので本来のパシリ役のシゲキも何も言い返せず、レイナはそそくさとその部屋を出て行った。 「珍しい事もあるものだ、彼女が自らお使い役を買って出るとは」 トオルが思わず口を滑らしたとおり、生徒会長自らパシリ役を務めるなんて、生徒会役員がこのメンバーになって初めての事だった。 「ふーん・・・まあ、それはそれとして、私達が今日ここに来た理由なんだけど・・・」 「ああ、何か相談したいと言う事だったね。どうぞ、座って」 トオルに促されてアスリンとシンイチは部屋の奥に置かれているソファに座った。 「何で生徒会役員室にソファなんかあるの?どうやって買った訳?」 「ちょっと、アスリン・・・」 何だか、生徒会役員会の管理する予算について訝しんだアスリンはその使い道に疑問を投げかけるが。 「これは先生方の使 「まず、盗撮の件だけど、誰かが被写体に何の断りも無く撮影しているらしいという噂は僕も聞いた事があるんだ」 「どんな噂ですか?」 「自分で言うのも口幅ったいんだけど、その盗撮写真の売れ行きNo.1は、男子が僕で女子は綾見さんだとか・・・」 “・・・確かに、綾見先輩は美人だし、トオル先輩も美男子だし・・・盗撮が事実だとしたら売れ行きNo.1になるかもしれないな・・・” シンイチは自分自身も、自分が女装したシンデレラもそのBEST3内にランキングされている事など全く与り知らないところだった。それに対し、アスリンは盗撮の事は知っているし、ケンタから月の売上金額の1割を口止め料として貰って小遣いにしている事もあって、それを強く否定する事に吝かでない事も無かった。 「それから、ブルマーは嫌だという意見も、彼女達以外に、他のクラス・学年の女子にある可能性は否定できない。以上の理由で、ブルマー廃止について生徒総会の議事として取り上げない理由は無い、という事になったんだよ」 一部の生徒の意見だけでなく、生徒全体の事を考えるのがその存在理由である生徒会役員会であれば、稟議の結論がそこに帰結したのも宜なるかな・・・という事のようだった。 それを強く否定する意見をアスリンとシンイチは持っていなかった・・・。 「・・・何か、生徒会役員に話してもあまり意味無かったわね・・・」 戻る道すがら、アスリンがポツリとこぼすと。 「でも、少なくともトオル先輩達がブルマー廃止派ではなく中立の立場だと確認できたから、意味はあったんじゃないかな」 生徒会役員会がブルマー廃止派/賛成派のどちらかの立場である事を表明したら、それこそ2-Aのホームルームにおけるシンイチの発言のように、大きな影響を生徒総会に及ぼす事は必至だ。 ちなみに、生徒会役員にブルマー廃止を訴えた連中が嘘を言っていた事を知った生徒会役員のメンバーはその場にいなかった一名を除いて一斉に眉をひそめた。 ブルマーはあくまでも女子の体操服であってそれが廃止されるか否かは男子には関係が無かったが、嘘を言われた事に対して心象は悪くなったのは間違いない。 「・・・・・・・・・トオル先輩、ね・・・名前で呼ぶなんて、相当親密な間柄のようねぇ?」 アスリンが脳裏に何を想像してそんな言い方をしたのか―――腐女子ならすぐにわかる事だが―――シンイチにわかる筈も無かった。 「それは、名前で呼んでくれって言われたからだって、ちゃんと昨日説明したじゃないか」 「あー、そうだったっけ?」 気のない相槌を打ちながらも、アスリンは別の事を考えていた・・・。 「・・・それで、一先ずここに逃げてきた、という事かね?」 「済みません、夕月先生・・・」 生徒会役員室でトオルがシンイチやアスリンの話を聞いている時、生徒会長の綾見レイナはずっと学園長室の中にいた。 シンイチがアスリンと一緒に生徒会役員室に顔を出した時、レイナは一瞬焦った。全く予想外の展開だったからだ。シンイチが2-Aの生徒である事は百も承知していたが、例のブルマー廃止問題が持ち込まれた際、それにシンイチが巻き込まれていた事など、トオルは全然言っていなかったのだ。 「・・・私には・・・まだ面と向かって話す勇気が持てないんです・・・」 「別に咎める気など有りはせんよ。寧ろ、いい経験であったと思う。いつかは君の事を話さなくてはならない。その時の為に、今日の思いを大切にすればいい」 「はい・・・日記にしっかりと書き留めておくつもりです」 「早いものだ・・・あれからもう、いや、いつの間にか14年か・・・」 レイナが校長室を辞してから、夕月は14年前の過去に思いを馳せた。 その日、鶴光大学理学部生命科学科夕月研究室では『生命の定義は肉体か精神か?』という議論のために、とある研究が行われていた。 「生命とは、肉体に精神が宿ってこそ、初めて定義されるものと考えます」 研究室員の一人、猪狩ユイコはそう唱えていた。 猪狩一族の直系の一人娘であり、将来の猪狩財閥グループの総帥の座を嘱望されていたユイコのその理論の検証の為に、夕月研究室には多額の寄付金が入った。 そのユイコの理論に同調し、共同で研究を行っていたのはユイコの先輩、六本木ケンゾウ。研究の実務的には主に彼が主体で動き、ユイコはどちらかと言うと研究方針の策定・指示をする役だった。言わば、頭脳労働はユイコ、肉体労働はケンゾウという形であった。 「では、意志、言い換えるならば精神を削除すれば元の肉体は人間ではなくなるという事か?」 「精神が無ければ、いくら生きていてもそれは人間と言えるでしょうか?」 「しかし、それは意識を失った人間も否定する事になりはしないかね?」 「自分の意志で活動してこそ、生きていると考えます」 「他人の強要は?」 「抗う術無く従うとしても、それを選択したのは自分の意志でしょう」 「だが、自分の意志で無いのであれば、本能はどうなる?自分で動けと言って心臓を動かせているのではないし、疲れれば睡眠も取らなければならない」 「本能の範囲は動物であることの前提です。植物に本能はありませんし」 「眠っている状態さえ、死んでるも同然か」 「Cogito ergo sum・・・人は生きてゆこうとする事にその存在理由があるのです」 定義としては、彼女の理論はかなり過激なものであったが、しかし彼女はそれを学術研究だけのものとしていた。眠っている者・意識のない者を人間としないのならば、それはとんでもない差別につながる。 しかし、何事も正しく理解しようとしない、意識して誤解し間違った思想にすり替える・結びつける者が存在するのも、いつの時代でも有り得る事であった。 「ならば、意志、心、精神とは何か?」 「肉体の成長とともに精神も成長していきます。それは経験、つまり記憶ではないでしょうか?」 「すると、肉体はただ単に心の容れ器に過ぎないと言う事か」 ならば、記憶を失った肉体はただの物体で、新たな肉体に記憶を移せばそれが生命体になるのであろうか? すると、もし自分のクローン体を準備しておけば、事故・病気で生命活動が危機に陥った時、記憶をクローン体に移せば延命できる事になるのか?それは・・・・・・・・・。 そして、いよいよその実験が行われる事になった。 マウスから記憶を抽出し、クローンマウスに移し替える。記憶を移し替えたクローンマウスは元の身体と同様な反応を示すのか? その実験開始までに、既に理論は完成していた。実験が上手く行けば、もしかしたら人類は新たなステージへと足を一歩進める事ができるかもしれない、その可能性が出て来る・・・・・・・・・。 事故が起こったのは実験半ばまで進んだ時だった。 実験室で原因不明の謎の爆発が起こり、それに巻き込まれた結果、ユイコとケンゾウはすぐさま練芙学園大学付属病院に運ばれたのだが、手当の介も無く死亡したのだが、シンイチはユイコが死ぬ直前にこの世に生を受ける事ができた。 幼いシンジは母方の祖父である猪狩ジュウゾウに引き取られ、ジュウゾウの死後はアメリカから帰ってきたサトミに引き取られた。 “彼女のレポートは刺激的だった。私があの研究を許可しなければ、あの親子は今ももっと平凡に幸せな暮らしをしていたのではないだろうか・・・・・・・・・” しかし、その夕月も、今シンイチが猪狩一族と萩生一族の争い?に巻き込まれていようとは思いもしなかった・・・・・・・・・。 「なるほど。状況はわかったわ」 夕食時にアスリンとシンイチの話を聞いたサトミは大きく頷いた。 「流石に男子と違って女子は当事者だから具体的な対策が多く出たようね。校内新聞にブルマー廃止反対意見を出すのも非常に効果的と思うわ。ブルマー賛成派の男子への援護射撃にもなるでしょうし、同じ2-Aの中から多数派の意見が出たと言う事も反対派への牽制になるわ」 単なる自分達のワガママ同然の理由で生徒総会の議事に持ち込んだ事がわかれば、中立派がブルマー廃止反対派に傾く可能性も大きいと思えるのだ。 「じゃあ、新聞部への意見陳述はアスリンがやりなさい」 「私?シンイチじゃなくて?」 二人は揃ってキッチンで洗い物をしているシンイチを見た。エプロンをしたシンイチは背中を向けて洗い物をしているが、身に着けているのは体操服とブルマー。時折ブルマーに包まれたお尻を身動ぎさせているのは勿論アヌスの中に入っているバイブの振動がランダムに強くなったりするからだ。 「シンちゃんにはもっと大きな仕事が有るからね」 「え?何ですか?」 ちょうど洗い物が片付いたのか、エプロンのポッケに入れていたハンドタオルで手を拭いたシンイチは、エプロンを外しながら歩み寄った。 「ムフフ・・・シンちゃんもすっかりブルマー姿が板に付いてきたようね」 サトミは相変わらず邪笑を零しながらいやらしい目でシンイチのブルマー姿を堪能する。特にブルマーの前がちょっとテントを張ってるように膨らんでいるのが一番のチャームポイントに思えるようだ。 「えっと・・・女装するの、好きですし・・・気に入って貰えるのは嬉しいです」 シンイチは女のコらしくその場でくるっと回ってスマイルした。 「わお・・・そんな可愛い仕草見せると、思わず襲いたくなっちゃうじゃないのよう・・・」 「ちょっと、サトミ・・・」 「わかってるってアスリン、言ってみただけよ。シンちゃんはアスリンのものなんだから、手を出す訳ないじゃない。冗談よ、ジョーダン」 アスリンにとっては本当に冗談で済めばいいのだが、でもシンイチとしてはアスリンのペットでいるよりはサトミに弄ばれていたいと言うのが本音だった。 「で、シンイチの大きな仕事って何?」 「当然、生徒総会で意見陳述が有るわ。そこでシンちゃんにはブルマー廃止反対派として出て貰うのよ。何もかも男女同じにするのはおかしい、という意見は勿論シンちゃんが言って2-Aのクラスの圧倒的多数を納得させたんだし」 つまり、新聞部にブルマーが機能的に優れている事を言うのは実際にブルマーを使う女子の代表としてアスリンが、男女平等と男女の区別について言うのは実際にはブルマーを使わない男子の代表としてシンイチがふさわしい、と言う事だった。 「・・・ふーむ、なるほど・・・うん、確かにそれがいいかもね」 ここでアスリンが考えたのはブルマー廃止反対での事ではなく、あくまでもシンイチの調教としての事であった。生徒総会でブルマー廃止を訴えさせたのはブルマーを穿くのが好きで廃止されたら楽しみが無くなるから、そういう理屈を既成事実にしたかったのだ。 「じゃあ、二人ともちゃんと言うべき事を考えておきなさい」 「はーい」「わかりました」 『なるほど。状況はわかったわ』 今はお風呂タイム。サトミはイツコに電話を掛けていた。ブルマー廃止問題対策でさらに何かいい案が無いか?MADのイツコなら答えてくれるだろうと思っての事だ。 『そのブルマー反対派の女子の動向に注意を配る事が必要ね』 「でも、どうやって?四六時中監視する訳にもいかないでしょ?」 『そうね。まあ、生徒同士でやってる事に私達が積極的に首を突っ込むのはあまり芳しくないわ。私が言ってるのはそのコ達が私達教職員にどんなアクションを起こすか、よ』 「そこんところ、もっと詳しく」 『つまり・・・』 イツコが言うには、より自分達の意見を強化する為に、彼女達は大人を味方にする、言い換えれば大人が納得できる意見を手に入れようとするだろう、という事だった。 さらにその対策もイツコが買って出てくれた。MADイツコの手腕や如何に・・・。 そして、いよいよ生徒総会の日がやってきた。 校内新聞にはブルマー廃止派・廃止反対派の双方の意見が掲載された。一度2-Aのホームルームでブルマー廃止意見は否決されたと言う事実を公にして、ブルマー存続有志の会は盛り上がっていた。 「行けるんジャマイカ?」 「惣竜のやつもGJだな!」 アスリンが新聞部に意見した事はシンイチから報告されていて、ケンタとコウジは楽観視していたが。 「まだ楽観視するのは時期尚早だよ。『勝って兜の緒を締めよ』・・・じゃなくて、『油断大敵』か。勝負はやってみなけりゃわからないって言うし」 「それもそうやな」 「しかし、シンイチも何か張り切ってるみたいだな」 「そりゃあね、あそこまでされたら意地でもって気になるよ」 校内新聞にブルマー廃止反対派の意見も掲載されたその日の夕方、またしてもシンイチはブルマー廃止派の女子数人に取り囲まれた。 それは、シンイチが新聞部に話したのだろうと決めつけて―――校内新聞には、同じ2-Aの意見であるとまでは記載されていたが、その意見者については匿名にしていた。それは、ブルマー廃止派の女子の要望だったので、ブルマー廃止反対派の意見も同じ匿名にしたからだった―――またしてもシンイチを吊し上げようと目論んだからだった。 「何だかんだ言って、あんたもスケベな事考えてんでしょうが!」 ブルマー廃止反対派へのネガティブ・キャンペーンそのままにシンイチを詰ってきた彼女達だったが。 「ブルマー廃止反対派の意見は、惣竜アスリンさんです」 そこに通り掛かったのが新聞部の一年女子、納内ノゾミだった。 ノゾミが否定した事でようやくブルマー廃止派の女子は引き上げて行ったのだ。 内容―――ブルマーが機能的にハーパンより優れている事―――からして、シンイチの意見―――男と女は違うから服装も違うものにすべき―――ではなくアスリンの意見だとわかってもよさそうなのに、彼女たちは一方的なシンイチ憎しの感情から間違った思い込みをしていたのだ。 そこまでされたなら、シンイチに彼女達の我儘・横暴を許せるという感情が残る筈も無かった。 その日の夕方、生徒総会が開催された。 議長は生徒会長のレイナ。彼女の議事進行によって今回の生徒総会開催理由―――一度掲示板で文章説明されていたが、再度という事で―――の説明があった後、早速討論に入ってブルマー廃止派・同廃止反対派の意見が飛び交った。 ブルマー廃止派はキヨミ・コトコ・ヒデコの三人で、言ってる事は殆ど今までと何も変わっていなかった。 まずハミパンの問題はアスリンが下着を工夫すれば解決する事を説明した。 男子から変な目で見られる、というのもシンイチがそれは勝手な思い込みで男子に対する差別だと言い返した。 ブルマーがまるでパンツみたいでダサくて恥ずかしくて嫌だというのも、ブルマーの機能性――男子と同じハーパンあるいはショーパンにすると逆に裾から下着が覗く可能性がある事・パンティラインの浮き上がりも解消されない事・何より運動に置いては機能的に優れている事をバレー部のキャプテンである響生コダマが説明し、最後に「ブルマー廃止反対は運動部の女子全員が同意した意見」である事を宣言したりした。 それらは既に2-Aのホームルームで論破されている事だったので、その事態を予想していたのか、キヨミは最近新聞に投稿されたブルマー廃止を要望する読者意見を持ち出してきた。 「男女で体操服を別にする合理的な理由は何もありません」 しかし、男子生徒でただ一人意見を述べているシンイチは怯まなかった。 「合理的、って具体的にはどういう意味ですか?」 「え?えっと・・・それは・・・」 「合理的って、つまり理合いに適っているという事じゃないんですか?だったら、合理的な理由はあります。それは、男と女は違う、と言う事です」 それも、2-Aのホームルームでシンイチが言った事だった。男と女は違うのだから、服装も別の物にするのが普通であり、男女平等の名の下に何でもかんでも男女同じにしてしまうのはおかしい。 ホームルームの時は水着とか更衣室とかについても言及したが、ここでは話がまたおかしくなりそうなのでシンイチは黙っていた。 「逆に、男女で体操服を同じにする合理的な理由はあるんですか?」 「例えば、男女同じハーパンになったら、男子にスケベな視線で見られる事は無くなります」 それは男子に対する勝手な思い込みだとさっき言い返されている。 「じゃあ、ブルマーのままだったら、世間で騒がれているようにいつか援助交際に繋がりかねないと思います」 ブルマーを主に、制服や水着・下着等の衣類を―――挙句の果てには唾液まで売ってそれを買うなど、そこまでいくと最早狂気の沙汰だが―――所謂ブルセラショップに売ってこずかい稼ぎをする女子高生が巷に増えているらしい。こずかい稼ぎならまだいい方だが、援助交際まで行くと・・・。 「それは、僕達の事を信じる気の無い、意見など尊重しようとさえしない身勝手な大人側が勝手に作った話です。僕達を心配しているようでその実は縛り付けようとしているだけです。それに、僕はこの学校の生徒に援助交際しようとする不道徳な者がいるなんて信じません。貴女は同窓生を信じられないんですか?」 このシンイチの返答には予期せず生徒達の中から拍手が巻き起こった。 「でも、生徒の中には男女のきょうだいがいる人もいます。男子も女子も同じハーパンになったら、購入費用も安上がりになります」 「どうして安上がりになるんですか?」 「えっと、家庭科の但嶋先生が教えてくれたんですけど・・・」 そう言って彼女は壁際でオブザーバーとして生徒総会を見ていた教職員の中の当人の方に振り返った。 「但嶋先生、よろしければ補足説明をお願いできますか?」 レイナに促されて彼女がマイクを取った。その説明によると、要するに商品は大量購入するとある程度の大きな利益が出るからそれが十分ならば少しは値引きサービスするという事だった。だから、今まで男子だけだったのが女子もとなったら売り上げは倍になるから単価は必ず下がるとか。 「でも、仮に来年から全員ハーパンになるとしても、今の時期にそんな事決めたって、生産が間に合わないと思いますが?」 「いいえ、大丈夫です。それぐらい確保されています」 「何でそんな事わかるんですか?校章も刺繍ですよ?到底間に合わないと思いますけど?」 「えーと、そこは、その、省略すればいいかと・・・」 「えっ?省略していいんですか?」 「あ、その、それがまずければ、プリントするとか方法ありますし」 「でも、数そのものは間に合うとしても、個人個人でサイズが違うんですよ?小さくてサイズが合わない場合はどうするんですか?」 「それは心配しなくても大丈夫です。信頼している業者がありますから、ちゃんと員数分は集めてくれるそうです」 語るに落ちるとはこの事だった。 「業者ですか・・・」 マイクを取ったトオルは彼女に厳しい眼差しを向けた。 「まだブルマーからハーパンに変更するかどうかも決まってないのに、いろいろと業者に話を持ちかけたんですか?」 「えっ?」 「じゃないと人数分集めてくれるとか、わかりませんよね。校章の刺繍についても、省略するとか、ダメならじゃあプリントするとかコロコロ話が変わりますけど、それって学校側の正式な意向なんですか?但嶋先生の個人的考えなのでは?」 トオルの質問に彼女は何も答えられずに口元を押えて立ち尽くしてしまっていた。 「差支えなければその信頼できる業者さんを教えてくれませんか?」 但嶋先生が何も答えられなくなってしまったので、生徒もどうした事かと静まり返っていたのが少々ざわめきが起こり始めた。 「ねえ、ノゾミ。何で但嶋先生は何も言わなくなっちゃったのかな?」 「さあ・・・サクラはどう思う?」 「うーんと・・・あれかな?校章の刺繍・・・省略とか、プリントとか、いろいろ自分だけで決めて話をしてたって事じゃない?」 納内ノゾミと話していたバレーボール部の一年生、鈴川サクラは兄に比べ、ずっと頭の出来がよろしいようだがそれはさておき。 「もしかして、身内とかの個人的関係があるんですか?だからその業者さんに全部用意して貰いたいとか・・・」 トオルの追撃は続く。 「ち、違います!貴方は何を根拠にそんな事言ってるんですか!?そんな事ブルマー廃止問題と関係無いでしょう!」 旗色が悪くなったと感じたキヨミは慌てて否定したが、それも語るに落ちたも同然だった。 「キミの言ったとおり、但嶋先生の話の根拠がわからないから僕はいろいろ聞いてみたんです。で、何故キミが違うと否定できるのかな?」 トオルに言われて気づいたキヨミは顔面蒼白になった。 その後、賛成反対それぞれの意見や質問事項も出なくなったので多数決を取る事になった。 ステージの左右に〇と×がそれぞれ書かれたホワイトボードが置かれ、ブルマー廃止賛成は〇に、ブルマー廃止反対は×の方に移動し、その境は生徒会役員の持つロープで区切られた。 〇の方に移動したのはキヨミ・コトコ・ヒデコを始め、ブルマー廃止運動をしていた僅か数名で10名にも満たなかった。 圧倒的多数で生徒総会はブルマー廃止を否決したのだった。 「いやぁ、本当に上手く行ったわね、「ブルマー廃止運動」廃止作戦は」 その日の夕食メニューがアスリンの大好きなハンバーグである事も相まって、アスリンは上機嫌だった。 「ちゃんとアシストした私にも感謝してほしいところだけどね」 「勿論よ!流石サトミ、あいつらの企みをよくぞ潰してくれたわね」 まあ、具体的にサトミがしたのはイツコに相談した事ぐらいだったが。 で、そのイツコが任してくれと言って実際に何をしたかと言うと、実は何と盗聴だった。 ブルマー廃止派の女子たちが大人の意見を手に入れようとする、と推測したイツコはその悪魔的に天才な頭脳を構成する灰色の脳細胞をフル回転させて、ブルマーを廃止した後の問題である「ハーパンが来新学期までに員数分揃うか」についても理論武装するだろうと予測し、ではそれについてどうやって大人の意見を入手するかを考慮し、服飾の事で相談するなら家庭科の但嶋先生の元へ行くだろうと推測し、あろう事か彼女の仕事場である家庭科準備室に盗聴器を仕掛けたのだ。勿論、その盗聴器の準備と設定については流石のイツコも専門外だったため、そこは裏技を使ったのだ。 イツコ→サトミ→剣崎の流れで、そのスジの専門家を雇った訳だ。 斯くして得られた情報は ・ブルマー廃止派が但嶋先生に相談に来た。 ・但嶋先生には身内にスポーツ用品店に勤めている者がいる。 ・その人を通じて情報を入手したらしい ・おまけに、ブルマーが廃止になって全員ハーパンになったら、その店に全部準備して貰う約束をした。 ・さらにおまけで、その店から但嶋先生に謝礼としてキックバックが ・さらにおまけのおまけで、そのキックバックの中からブルマー廃止派三人におこづかいが という事だった。 そう言う情報を念頭に入れて、シンイチは生徒総会での受け答えを考えたのだ。 「でも、結局キックバックっていうのは不正行為な訳でしょう?どうして生徒総会の前に教頭先生とかに言わなかったんですか?」 「バカね、そしたらその情報をどうやって入手したってなるでしょ?痛くも無い腹を探られるの、嫌じゃない」 シンイチの疑問にアスリンが答えるものの、盗聴したのだから十分すぎるほど痛い腹だった筈だがそれはさておき。 「それにしても、シンちゃんもよく頑張ったじゃない」 「当然ですよ。あの連中のしつこさと言うか妄執には呆れるのを通り越してちょっとムカついてましたから」 「またまた・・・ブルマーを廃止されるのが嫌だから、張り切ったんでしょーが」 「あの、えーと・・・」 アスリンが下卑た笑みを向けると、シンイチは応えに窮して思わず俯く。 「だって、廃止されちゃったら大好きなブルマー穿けなくなっちゃうもんね。今もチンポフルボッキさせてんでしょ?」 「そ・・・そうです・・・」 頬を赤く染めたシンイチはか細い声で肯定するしかなかった。 やっぱりシンイチは今も体操服にブルマーと言う姿で食卓に着いている。勿論アヌスにはバイブが入って今も小さく振動して絶え間無く刺激を送ってきている。 しかしシンイチがペニスをフル勃起させてしまっているのは女装のせいであって断じてアナルバイブのせいでは無かった。 「うふふ、恥ずかしがっちゃって可ー愛い。わかってるわ、シンちゃんは女装大好きっ子だもんねー」 別に何も否定していなかったが、サトミはそう言って女装美少年を愛でるのを愉しむ。 「あ、あの、私の事はともかく、最後の決め手になったのは、トオル先輩が但嶋先生の答えに疑問を持ってくれた事です」 シンイチは無理矢理気味だったが話を元に戻した。 「それはまあ確かにね。但嶋先生の不正を知っていたとはいえ、うっかり口を滑らしてしまった時は思わず吹き出しそうになったわ」 「でも、凪羅くんもよく業者と言う言葉にピンと来て反応したわね」 元々そのツッコミもシンイチが行う予定だったのだが、予期せずそれをトオルが代わりにやってくれたのだ。 「それは、トオル先輩は生徒会副会長ですから・・・生徒会全体の事を考えてる人ですから、やはり先生側の方で不審な言動があれば・・・私達の味方になってくれるのは当然ですよ」 シンイチはトオルが味方になってくれた事が殊の外嬉しいようだ。勿論それは頼もしい信頼できる同性の先輩であるという捉え方でしかなかったが。 “トオル先輩、ね・・・ふふん、スゴクいい事思いついちゃった・・・” アスリンがこの時脳裏に描いた光景をシンイチが感じる事ができる筈も無かった。人の頭の中だし、当然の事だったが。 「当面の問題は片付いたけど、どうもシンイチの調教の進み具合が今一つなのよね・・・」 生徒総会での頑張りのご褒美として、偶には一番風呂に入らせてあげるという事になって、シンイチがお風呂に入っている今、アスリンとサトミはリビングで声も密やかに秘密の打ち合わせをしていた。 「そう?すっかり女装好きになってオチンチンをフル勃起させちゃっているし、アスリンの言いつけを守ってしっかりアナルバイブも自主的にアヌスに入れてるじゃない?何か不満?」 サトミとしては今のままでも十分自分の目を愉しませてくれる女装ペットにシンイチが堕ちてくれているので何の不満も無かったが。 「だって、なかなか女のコとして目覚めてくれないんだもの。もう、アナルバイブを使わせ始めてから結構経つんだけど、未だにオナニーしたいとか射精したいとかお願いしてこないし。これもインポって言うの?」 「女のコなら、逆に女装して興奮する事は無いと思うけど?オチンチンはフル勃起してるからインポって事は有り得ないし」 「じゃあ、意識はまだ男のままって事?」 「おそらくね。でも、女装が好きで積極的なのは、おそらく女のコ気分を楽しみたいって気持ちの表れよ」 「だったら、アナルバイブで何で性感が昂ぶらないのよ?」 「うーん・・・そこは、やっぱり男のコの身体の不思議と言うか何と言うか・・・」 サトミは少々言葉を濁した。 どうあってもシンイチがアナル性感に目覚めなければ、アスリンが何だかシンイチに興味が無くなって手放してしまい―――それはアスリンとシンイチの絆が切れてしまう事を意味する―――最悪、シンイチの弱みである変態的女装写真を公開してシンイチを破滅に追いやってしまうかもしれない、という危惧があったからだ。 二人の姉代わりでもあるサトミとしては心苦しいところであった。 「何かいい案無い?」 「・・・また、イツコに相談してみるか・・・」 「シンイチ、準備できた?」 そう言ってノックもせずにアスリンがシンイチの部屋のドアを開けるとそこには制服に身を包んで鏡に姿を映しているシンイチがいた。 「何、自分の女装姿に見とれていた訳?」 「あ、いえ、ちゃんと着れているかを確認していただけです。どうですか、アスリン様。おかしな所は無いでしょうか?」 髪の毛もちょっと伸びてきたし、通販で買ったリボン付き髪留めをアクセントとしてセットしたその姿は、ぱっと見では男のコとは思えないほど女のコしていた。 「・・・う、うん、まあ、大丈夫よ。つーか、全然男に見えないし、女で通るし・・・」 まさに、「こんな可愛いコが男のコの筈が無い」のまんまだった。だが、何となくアスリンは何かが気に入らないような納得できないような反応。 「有難うございます。これもサトミさんやアスリン様のおかげです」 そのシンイチの微笑みは作り物ではなく、心からの表情のようだった。つまり、シンイチは女装を心底楽しんでいるらしかった。 “・・・な、何、女装を楽しんでいるのよ、このヘンタイ・・・” 自分が何にイラついているのかに気づいたアスリンは、早速シンイチへのいじめを発想した。 「じゃあ、ちょっと確認するわよ」 アスリンは言うや否やシンイチのスカートの前を捲り上げた。 「や、やだっ・・・アスリン様、ちょっ・・・」 言葉だけ嫌がったものの、シンイチはほとんど抵抗はしなかった。 フロントからバックまでたくさんのフリルが飾り付けられた、まるでテニスのアンダースコートのようなパンティの前が何やら不自然に膨らんでいるのは、勿論ペニスがフル勃起して突き上げているからだ。 「・・・ったく、またチンポフルボッキさせて、この変態!」 「ご、ごめんなさい、アスリン様・・・」 シンイチは謝罪のセリフを口にするが、それは形式的なものだ。シンイチを女装趣味に堕としたのはサトミ・アスリン両者の意向であり、女装で性的興奮してしまう変態に仕立て上げたのは二人のせいであってシンイチは何も悪くない。何も悪くないから本心で謝る必要も無いのだ。 要するに、どういう反応をすればアスリンが喜ぶか、アスリンの嗜虐趣味を満足させられるか、もうシンイチは理解してしまっているという訳だ。 勿論、この状況を心底喜べるほどの被虐趣味など全く無いが。 「アスリーン、シンちゃーん、そろそろ出掛けるわよーン」 「はーい!ほら、行くわよシンイチ」 サトミから呼ばれて同じ制服姿のアスリンとシンイチは部屋を出た。 時刻は曜日が金曜から土曜に変わる1時間前。 「こんな時間にどこに行くんですか?」 お出かけするから制服に着替えるようにとサトミに言われたシンイチは、目的地も言われぬままでとにかく着替えた。 「それはね・・・イ・イ・ト・コ・ロ」 バックミラーに見えるサトミはニッコリ笑顔でシンイチに答えた。 「行けばわかるわ」 助手席のアスリンの言葉は何のヒントにもなっていなかった。 サトミの駆るスバル360(通称:テントウ虫)は夜の街を静かに抜け、シンイチもよく知っている坂道を登り始めた。 「・・・あれ?このまま行くと・・・」 シンイチも、そしてアスリンも練芙学園の女子制服のセーラー服姿である。 「やっとわかった?だから制服に着替えて貰った訳よ」 「そ、そんな、こんな格好で学校に行くなんて・・・」 シンイチは急に不安顔になって慌てだしたが。 「安心しなさい。こんな時間に生徒なんていないわ。ほんのひと時、女子生徒として楽しんで過ごすのよ」 「は、はい・・・」 不安は解消したものの、まだ何となく緊張した面持ちのシンイチを乗せたまま、サトミの車は練芙学園中等部の駐車場に到着した。 横断歩道で道路を渡ればすぐに中等部の正門だが、こんな夜遅くでは当然閉まっているので、三人はサトミのパスで開いた通用門から入った。 「どう、シンちゃん、女のコとして登校した気分は?」 「ど、どうって・・・ほ、本当に誰もいないんですか?」 「いる筈無いじゃん。こんな時間に誰がいる訳?」 確かにアスリンの指差す校舎にはどこにも明かりは灯っていない。今この学校内にいるのは確かに自分達三人だけのように思える。 グラウンドの傍の両脇に花壇が続く道を少し歩けば、校舎に入る昇降口に辿りつく。当然その入り口は閉ざされていたが・・・。 「よいしょっと」 サトミが手で横にずらすようにすればガラス戸は簡単に開いた。何の事は無い、鍵が開いていたのだ。 勿論普通に考えれば鍵を掛け忘れる筈が無く、誰かが先に開けておいたと考えるのが普通だ。 サトミは先に入って壁のスイッチを入れて電燈を点灯させた。 「じゃあ、行きましょ」 アスリンに促されてシンイチはいつものスニーカーではなくクラビーノを脱いだ。 「あれ?」 下足箱に入っていた上穿きの爪先の彩は男子用の水色ではなく女子用の桃色だった。しかもサイズはぴったり。 「いつのまに・・・」 「用意がいいでしょ?」 言いながらサトミは壁のスイッチを入れて廊下の照明を点けていく。 「ちょっと、いいんですか、勝手にそんなに・・・」 「大丈夫。子供は余計な心配しなくていいの」 勿論、その根拠の無い話もイツコからの「大丈夫、私に任せておいて」―――それ自体も何の根拠も無い言葉だったが―――という台詞の受け売りみたいなものだった。 誰もいない校舎内では、リノリウムの貼られた廊下を歩く足音がよく聞こえる。だが、誰もいないからこそそれを何も気にせず三人は進んで2-Aの教室前までやってきた。その入り口のドアも先ほどと同様に鍵は開いていた。 「じゃあ、シンちゃんはちょっと外で待ってて」 サトミはすぐに教室内の照明のスイッチを入れるとアスリンと一緒に入っていった。 「いいわよ、入ってらっしゃい」 一分も経たないうちに呼ばれたので教室に入ったシンイチはその瞬間ギクッとして立ち止まった。教室内にはサトミ、アスリンの他に一人の女子生徒がいたのだ。 「ほら、シンちゃんたらそんなとこに突っ立ってないでこっちに来なさい」 「ま、待って、サトミさん、だって、誰かが・・・」 サトミに手首を掴まれて引っ張られても、シンイチはダダをこねるかのようにその場から動こうとはしなかった。が。 「シンイチくん、心配しなくても大丈夫よ」 教室の後ろの方から聞こえてきたのはイツコの声だった。片手にハンディカムを持って教室内を撮影している。 「それにしても、サヤさんの制服姿、全然違和感無いわね~。こんな時、童顔っていうのは役に立つのね」 アスリンはシンイチの知らない女子生徒の傍に立って、そのコの姿をじっくり観察して半分驚き半分感心していた。 「アスリン、ちゃんと席に着きなさい」 「はーい」 「・・・え?えっ?」 アスリンがそのコのすぐ隣に座って、彼女がサヤと呼んだ女子生徒はふと気づいたようにシンイチの方を見た。その顔にシンイチも何となく見覚えがあった。 「シンイチったら、まだわかんないの?こちらは井吹先生よ」 「あの、シンイチくん・・・まあ、そう言う事なんだけど・・・驚かせてしまって、ごめんなさいね」 「・・・は・・・はぁ・・・」 その女子生徒?が自分の女装姿を初めて見る無関係の者ではなくてサヤだった事がわかって、シンイチは何だか気が抜けて、サトミの引っ張る力に抵抗する事も無しに教卓の傍まで連れて来られた。 「はい、それでは特別授業を始めます。今日は猪狩シンイチくんが女のコとして参加してくれます」 「サ、サトミさん!?」 突然、サトミが訳の分からない事を言い出したのでシンイチは思わず目をパチクリ。 「・・・シンちゃん、学校では先生、でしょ?」 「あ・・・すみません・・・サトミ先生」 桂木先生と言うのが普通だが、彼女の親しみやすさから生徒の誰もがサトミ先生と呼んでいる。 「サトミ先生、特別授業って何をするんですか?」 アスリンが台本通りに手を上げて質問すると。 「それはね・・・」 サトミはシンイチの背後からいきなりスカートの前を捲り上げた。 「キャッ!や、やめて下さい!」 「ダメよ、シンイチ!サトミ先生に抵抗しないの!」 慌ててスカートの前を押えてサトミに抗ったシンイチだったが、アスリンのその声にびくっと身を竦ませてしまった。 「何を恥ずかしがってるの?シンちゃんの女装趣味は、ここにいる人はみんな知ってて理解してるんだから、隠す必要ないじゃないの。そうでしょ?」 確かにそうだが、それでもスカートを捲り上げられてパンティを見られてしまうのは恥ずかしい事だった。それは、女のコなら当然の反応であるのに・・・。 「それに、スカートを捲らないと授業が始まらないの。言ってる事、わかるわよね?」 「は・・・はい・・・」 言ってる事は理解できないが、人の言う事には素直に従うのがシンイチの性格だった。サトミの台詞の勢いに負けて思わず頷いてしまったシンイチを見て、サトミはますます悪ノリした。 「じゃあ、シンちゃんにはそのまま自分でスカートを上まで捲り上げててもらおうかな?」 「え、えっ?」 「それぐらい、できるわよね?」 サトミの顔はとても楽しそうに喜色満面の笑顔だった。サトミにそんな顔をされては、シンイチも拒みようがなかった。 「ほら、やって」 「はい・・・」 そんな事をしたらどうなってしまうか、それを頭はわかっているのに、心はサトミの為にと思い、身体は勝手に動いていた。 シンイチは言われたとおりに自らスカートの前を上まで捲り上げて、パンティを三人の眼に晒す。 「はい、このとおり、シンちゃんは下着までちゃんとパンティを穿いて女のコしてるんですが・・・」 「はい、先生!どうしてパンティの前がテントを張ったみたいに突っ張ってるんですか?」 またしてもアスリンが既に知ってる事をさも知らないかのように質問するのも、ここが教室だからこその演出だった。 「それはですね、女装してエッチな興奮して、オチンチンがフル勃起してるからです」 「わお、ヘンタイじゃん」 「アスリン、そういう事を言わないの」 台本通りの台詞をサトミとアスリンは自然な体で熱演する。それがシンイチの心を傷付けていく事にアスリンと違ってサトミは気付かなかった。 「あの、サトミ先生、それで特別授業と言うのは?」 漸くサヤの台詞の番が回ってきた。 「はい、この女装してオチンチンをフル勃起させてしまう変態の美少年を、どうしたらもっと女のコらしくできるかについてです。」 それこそ、アスリンが望んでいた事だ。シンイチをもっと女のコらしく、アナルバイブで感じてイクように躾ける。 女のコは入れられて感じるのが当然という事を考えれば、アヌスにアナルバイブを入れられてイクようになるのは女のコらしくなる為には当然の事と思える。 「皆さんから何か意見はありますか?」 「はい!アヌスにバイブを入れて刺激し続ければイクようになると思います!」 そんな事はずっと前からやってるのに上手くいってないのだが、それでもアスリンはそれに拘った。それは、後々シンイチにバイブではない物も受け入れさせる為だった。 「いいですねー。それでは早速やってみましょう」 そう言ってサトミは教卓の中からあらかじめ用意されてあったバイブレーターを取り出した。 「それでは、シンちゃんにサヤちゃん、体操服に着替えて」 「えっ?」 いきなり脈絡のない展開にシンイチは目をぱちくり。 「さっきアスリンから提案があったとおり、しばらくの間、シンちゃんにはこのバイブレーターをアヌスに入れて過ごしてもらうわ」 そう言ってサトミがシンイチに突き付けたバイブレーターは、シンイチがこれまでに入れさせられた事のある表面がつるんとしたものではなく、亀頭部の鈴口、裏スジ、カリ、幹の血管を模した筋など、まるで男性のフル勃起したペニスそっくりだった。しかも、その径も何だか今までの物よりちょっと太くなっているような気がした。 「猪狩くん、体操服はここにちゃんと準備してあるから」 サヤは自分の右隣の机―――ちなみに左隣にはアスリンが座っている―――の上に、椅子に置いてあった体操服を出した。 最近までシンイチが着ていた体操服は贅嶺女学院高校のものだったが、用意されていた体操服はちゃんと練芙学園中等部のものだった。 「サヤちゃん、シンちゃんがバイブレーターを入れる時はちょっと手伝ってあげて」 「あ、はい、わかりました」 「はい、じゃあ、楽しんで」

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