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第7話 そのニー
「・・・・・・・・・」
シンイチ、いや、ユイコのバレエスタジオの最後の一日の様子を録画した映像を見終わったアスリンは仏頂面で一言も発しなかった。
「あらぁ?アスリンったらご機嫌ナナメかしらん?」
「・・・つまんない・・・」
「そ、そぉ?」
予想外のアスリンの反応にサトミも戸惑う。
「アスリンは、どういった部分がつまらないと感じるのかしら?」
イツコは薄々わかってはいたが、一応本人の言葉でサトミにわかりやすく説明させるために質問してみた。
「だって!・・・何よ、こいつ!幸せそうな顔しちゃって!女装してチンポをフル勃起させる変態のくせに、堂々とバレエ踊ってるじゃん!つまらない、ってゆーか、それを完全に通り過ぎて、ムカツク!!」
アスリンはそこに置いてあったリモコンを腹立ち紛れにTVの画面に投げつけようとしたが。
「あーチョッチ待った!落ち着きなさいって!」
あわててサトミはアスリンの腕をつかんで制止した。
「もう、こいつに女装させるの禁止よ!」
「えー?ちょっとー、それは無いわよー」
アスリンの暴走発言にサトミも大慌て。シンイチのいやらしい女装姿を堪能できるからこそ、サトミはアスリンの計画に協力していると言っても過言は無いからだ。
「ほらほら、ココに注目!シンちゃん女装して興奮してオチンチンをぴんぴんにしちゃってるでしょ?」
サトミは自分のショタコン趣味に過ぎない、女装美少年の魅力をアピールするのだが。
“ぷぷぷ、サトミったら必至ね・・・”
イツコは心の中で笑っていた。
「それは、サトミはショタコンだから、可愛い男のコがチンポをフル勃起させてたら興奮するんだろうけどさ・・・」
腐女子であるアスリンとしては自分の趣味としては少々萌えポイントがズレている訳だ。ただ、男のコが性的興奮をしている様を露わにしているだけではなく、ヤヲっている場面が無ければ今一つ興奮のボルテージが上がらなかった。勿論、アスリンはシンイチをイジメる事に喜びを感じている訳だから、巷の18禁ヤヲイ作品でも受けの方にシンイチを、攻めの方に自分を投影しているのは勿論である。
「あらあら、このいやらしさがわからないなんて、アスリンったらまだまだ子供ねぇ」
「それを言うんなら、サトミがもうオバンになってるって事じゃないの?」
「何ですってー!?」
「何よー!」
サトミとアスリンが一触即発になりかけたところで、ようやくイツコが間に入った。
「まぁまぁ。二人とも落ち着きなさいな。どちらも自分の趣味が主観になって、冷静な判断ができていないわよ」
「「・・・・・・・・・」」
「この世の人間には女と男しかいない以上、どちらも相手を求めるもの。貴女達はそれが趣味によって微妙にねじれてずれてしまっているのよ」
「何となくわかるようなわからないような・・・」
「もっと簡単に言ってくれないかしら?」
「つまり、相手を互いに求めると言う事は、相手に性的欲望を持つと言う事。男性が女性の裸体を見たいと思うのと同様に、私達も男性の裸体を見たいと思うでしょう?そして、男性が女性の性器に興奮するのだから女性も男性の性器に興奮するのは当然。サトミもアスリンも、シンイチくんのペニスがしかも勃起しているのに興奮しているからこそ、それが基礎となって、サトミは女装、アスリンはヤヲイという個人個人の異なる趣味に味付けされて、激しく興奮する事になる訳」
「「・・・ふぅーん・・・」」
冷静なイツコの説明を聞いてるうちに二人とも落ち着いてきた。どこまでしっかり理解できているかは不明だが。
「そして、サトミはシンイチくんより年上だからショタコンでも有り得るけど、アスリンはシンイチくんと同い年だからショタコンというのは有り得ない。だから別にアスリンがお子様な訳では無いし、サトミがオバンという訳でもないわ。どちらも年齢相応と言う事なのよ」
どっちが悪いとか間違ってるという事ではなく、どっちも正しくて間違って無くて、ただ趣味嗜好という個人的な感覚の相違によって発生した論争―――と言えば大人の言い方だが、はっきり言えばただの口喧嘩に過ぎなかった―――であったと気づいて二人は・・・。
「はぁ・・・バカみたい・・・無意味な言い合いして・・・」
「時間とエネルギーの無駄だったわぁ・・・」
二人両手を竦めて韜晦しあったところで、イツコは切り出した。
「仲直りしたところで今回の件について私からの問題提起よ」
「おりょ?何かマズい事でもあった?」
「やっぱりシンイチの女装禁止すべき?」
「そうではないわ。あまり、外部にいろいろと秘密を漏らすべきではない、と言う事。電子媒体相手ならなんとかなるけど、人の口に戸板は立てられない、って前にも話したわよね」
インターネットやケータイからの情報発信ならば、例のM資金で雇っているスーパーハカーとやらで対処できるが、口伝の噂はどうしようもない。今のところ唯一使える手段としては実弾だが・・・それは相手によっては後々逆に相手の思うツボにハマルかもしれない恐れが有る。
「つまり、白島バレエスタジオの事をどう抑えるかって事ね?」
「ああ、それなら大丈夫よ。ちゃんとたんまりと握らせてきたし」
ユイコが去った後で、キヌコはサトミから念を押されたとおり、今後もユイコの事は他言無用である事をレッスン生達に再度言い渡した。何と言ってもユイコはまだ中学生であり、その将来に不安を誘う事があってはならない。もしかしたらある日女装をやめて普通の男のコに戻るかもしれない。あるいは、性転換して本当に―――本物ではない―――女のコになるかもしれない。勿論、何も変わらない事も考えられる。だが、どんな方向に進んだとしても・・・もしユイコが変態女装中学生であった事が世間に知られてしまったらどうなるか?少なくとも普通の男のコに戻っても世間に怯えて過ごす事になるだろう。女のコになったとしても、普通の恋愛ができるだろうか?その他、様々な中傷や悪口雑言の的に晒される事も考えられる。
そして、キヌコはさらにその世間の悪意の視線が今目の前にいるレッスン生の方に向いてくる事をより怖れていた。例え変態女装中学生であっても、バレエへの情熱やその姿勢が真摯であったから自分は受け入れてバレエを教えてきた。レッスン生達も自分と同様に思ったのでユイコを受け入れた。その意志は何も恥じ入る事ではないと自分は考えている。だが、世間の悪意が向けられたらそれにいつまで耐えられるか・・・。せめて、ユイコが成人するまでは、秘密は守られなければならないのだ。
そして、勿論ユイコの事を本当に仲間だと思っていた彼女達は当然キヌコの言葉を真剣な面持ちで聞き、最後には誰もがユイコの名誉は守らなければならないと決意していた。
だが、人生は万事塞翁が馬、その先に何が起きるかわからないし、心変わりと言う物もある。心が弱ければ、他人の不幸をメシウマと言って喜ぶようになるし、他人を陥れたり悪意を向けたりして自分の欲求・都合を満たす―――簡単に言えば、人の弱みに付け込む―――ようにもなる。ユイコの事で誰かが誰かを脅迫するという事態になる可能性は、残念ながらゼロではないのだ。
サトミはキヌコの信条を信じてそれでも感謝の念と口止め料の意味を込めて多額の謝礼金を渡していたのだが、もしやがおこれば、その時は・・・。
目には目を、歯には歯を、とは言い過ぎだが、世界的企業にのし上がってきた萩生コンツェルンならば、治安の芳しくない国では無法をぶつけてくる相手にはそれ相応の対応を取らざるを得ず、つまりはそういう役目―――暴力には暴力で対する、所謂「汚れ仕事」―――を担う部署が有るであろう事ぐらい、イツコでも想像が付く。万が一の場合には、そこから対処して貰わなければ、アスリンの野望が頓挫する可能性も有る。まあ、イツコにとってはアスリンの野望が最終的に達成できるかできないかはどうでもよく、その経過・過程で自分が協力する事で自分の好きな事ができればそれでいいと思ってるし、サトミの願うシンイチとアスリンの平和的な結び付きもできれば成就を願いはすれど、その破綻・シンイチの破滅などを願ったりする気は毛頭無かった。
だが、問題は・・・イツコの熟慮する事をアスリンも考えているか―――この際、楽天的なサトミは論外とする―――どうかである。自分と違ってまだ中学生のアスリンならば、熟慮どころか短慮してしまって、あっけらかんと口封じを言い出しかねない。まさか、汚れ仕事の部署について知っているのならともかく、知らないところにうっかり口を滑らせて余計な知識を与えてしまう事にならないよう、イツコも話題に気を付けねばならない。
「じゃあ、それはそれとして、さっきの話に戻って・・・」
アスリンも所謂袖の下については、贈収賄事件が時折世間を騒がすので知識としては有り、サトミの策で何とかなると思った訳だ。
「シンちゃんの女装禁止には反対!」
「私も取りあえず反対にしておくわ」
2対1である。これにはアスリンも従わざるを得ない。が、せめてもの反抗てゆーか、どうしても言いたい、いや、聞きたくなるのは仕方がない事だった。
「サトミはともかくとして・・・イツコ先生はなんですぐ反対を即答したの?」
「アメとムチは使い分けなくちゃ」
「それはわかるけど・・・私はいつまでもそんな事言って甘やかしているから、なかなかA感覚が発達しないと思うんだけど・・・」
「まあまあ。それも、例のオクスリでだんだん上手くいくと思うから・・・」
確かに、セルフフェラで技巧は身に着けたとはいえ、アスリンからの命令だけで他人へのフェラチオを受け入れてしかもそれを積極的にこなすのは、おそらくイツコの開発したドホモルンクルリンの効果によるものだろうと思われた。
「とにかく、シンイチはアナルマゾのほもーん奴隷にするんだから、いつまでも女装なんてさせてられない、という事だけは忘れないでよ」
「「はいはい」」
「で、これから後の計画なんだけど・・・」
「トオル先輩、何か手紙が来ていますよ。私立贅嶺女学園中等部生徒会から」
「ああ、我が校とそこは姉妹校という間柄で、生徒会どうしでちょっとした交流があるんだよ」
シンイチは文化祭ではシンデレラ役で精一杯で他の催しなど全く気に掛ける余裕など無かったのだが、実はその時、生徒会はクイズ大会を開催していた。その時に問題作成や大会進行のアシスタントを手伝ってもらっていたのだ。
そして先方の文化祭では、生徒会主催の演劇に役者として参加したりしていた。
「ちなみにどんな役をしたんですか?」
「THE CHANGEでね・・・」
とある欧州の小国での話。その時の有力大臣にはある悩みがあった。自分の子供は二卵性双生児で顔がそっくりの男のコと女のコなのだが・・・占星術師の預言でとんでもない事になったのだ。それは、男のコは女のコとして、女のコは男のコとして育てないとこの国に災いをもたらすという結果が出てしまったのだ。だが、年頃になって二人は自分の身体と別の性で生きてる事に違和感が出て戸惑い悩み始めた。そして大臣もそれをどう解決するかで悩み・・・まあ、その他にもいろいろ登場人物はあって、何だかんだドタバタラブコメの果てに二人とも本来の性に戻ってハッピーエンドになる訳だ。
「で、僕とレイナがその双子を演じてね」
まあ、二人は確かに何となく似ているイメージがある・・・いや、イメージが似ているので適役だろう。で、その他のメンバーはチョイ役だったのだがそれはともかく。
「でも、その双子は主役な訳でしょう?他校の生徒会からのお手伝いなのに、主役をやってもいいんですか?」
「それがあちら側の要望だったのさ。いや、もしかしたら僕達を主役にする為に題材を選んだ可能性もあるし」
と、トオルが説明しているが、主役を演じたそのもう片方はやっぱり今日もそこにいなかった。
そのレイナは今は校舎の屋上にいた。さっきまでは学院長室に逃げ込んでいたのだが・・・
「君の気持はわかるが・・・いつまでもそれでは生徒会長としていかんのではないかね?」
と夕月に言われてそこを退室せざるを得なかったので、ここに来ていた訳だが・・・
「アノ、チョットイイデスカ?」
何やら日本語を覚えたての外国人のようなイントネーションで後ろから訊かれて、思わずレイナは振り向いた。
「・・・誰?」
「・・・えー・・・2年A組の惣竜アスリンといいます」
自分の事を知らないなんて・・・と一瞬ムカっとしたアスリンだが、取りあえずは顔に出るのは抑えられたようだ。
「私に何か用かしら?」
「あのですね・・・今、生徒会長がここにいるのは何故ですか?生徒会のお仕事は?」
「・・・さっきまで、学院長室にいて・・・お小言を貰ったので・・・ちょっと気晴らししてから・・・」
確かにレイナにとっては先ほどの夕月の言葉はお小言に近いものだったろう。だが、レイナにはまだ正面切ってシンイチと話す勇気は無かった。
「それで、用件は何かしら?」
「私と同じクラスの猪狩シンイチが最近生徒会のお手伝いをしているんですが、いつも生徒会長と顔を合わす事が無いと聞いたので、それは何故なのか・・・」
「貴女には関係の無い事だわ」
レイナは振り向いていた顔を戻して拒絶しようとしたが。
「いえ、あの、すみません、そういうつもりじゃなくて・・・えー・・・」
相手が気分を害したらしいとわかってアスリンは少々焦った。それでは何のためにここに来たのか、全く意味が無くなってしまう。
「・・・正直に言うから話を聞いて下さい・・・私、貴女に味方になって欲しいんです」
「・・・私が・・・何か、貴女のお役に立てるの?」
もう一度、レイナはアスリンの方に振り向いた・・・いや、今度はちゃんと向き直った。高等部への進級が迫っているとは言え、レイナはまだ中等部の生徒会長だ。生徒から頼まれ事・相談事を持ちかけられたら、まずは話を聞くのが務めだ。
「はい。実は・・・さっき話した同じクラスの猪狩シンイチが次の生徒会長の有力候補って噂ですけど・・・私も生徒会長選挙に出ようと思ってるんです。それで、どうやら副会長の人が相手の味方に付いてるようなので、私としては生徒会長に味方になって欲しいと思って・・・」
確かに、シンイチの優秀さは知っている。学業の成績もよく、男子・女子の分け隔てなく誰からも慕われているらしいし、教師陣の覚えも目出度い。先のブルマー廃止についての生徒総会でもその発言内容や態度は一本筋が通っていて、レイナ自身の贔屓目かもしれないがしっかりしていると感じた。そして、最近では生徒会の仕事をよく手伝いに来てくれて、もう一年前から生徒会の人間だったかのようなレベルまで仕事を覚えてくれたとか、トオルがしきりに褒めていたのも聞いていた。
「・・・頼ってくれるのは光栄だけど・・・でも、私達三年生に投票権は無いわ」
「あ、いえ、それはわかってます。私の味方だって事を公表してくれれば・・・つまり、私を推薦してほしいんです」
「・・・残念だけど、私は貴女の事をよくは知らないわ。よく知らない相手を推薦するような事は無理よ」
なかなか色よい返事をしてくれないレイナに、アスリンはいよいよもっと本音をぶつけるしかないと思った。
「でも・・・生徒会長は、あいつを嫌いでしょ?」
「・・・えっ?」
想像の斜め上からのそのアスリンの言葉に、レイナは怪訝な表情になった。
「・・・どうしてそんな事を言うの?」
「だって、あいつが生徒会室にいるから顔も合わせたくなくて、いつも外に出てきているんでしょう?だったら、大丈夫、同じです。私もあいつが大嫌いですから」
どうやらアスリンが自分とシンイチの関係を誤解しているとレイナはわかった。だが、それでもあえてその誤解を解こうとしても、そのために真実を言う事などできはしなかった。
「だから、あいつに生徒会長になって欲しくはないんじゃないですか?それなら、私に味方して下さい」
アスリンがかなり間違った方向に誤解しているのは事実だが、それを責める事などレイナにはできない。せっかくの依頼であるが、トオルの期待に応えようと頑張っているシンイチに対して反する側に就く事もやはり躊躇われた。
レイナはまたアスリンに背を向けてフェンスの外の青空を眺めた。
「あ、あの・・・」
「貴女の味方はできないわ」
「えっ?何でですか!?」
「貴女は誤解しているわ。私が生徒会室に足を向けないのは・・・貴女の考えている理由ではないの」
自分に背を向けたまま言葉をつなげるレイナにアスリンは戸惑っていたが、自分の推測―――レイナはシンイチが気に喰わないから一緒にいるのが嫌で生徒会室から逃げ出した―――が否定された事で、レイナを自分の味方に付けたいと言う目論見が外れた事にようやく気付いた。
「えっと・・・じゃあ、何で生徒会の仕事をサボってこんな所にいるんですか?あいつが嫌いじゃないんなら、すぐに戻って・・・」
「貴女は彼をどうしてそんなに嫌うのかしら?彼に反感を持っているとしたら・・・ブルマーを廃止しようと提案したごく一部の女子だけだと思うのだけど?」
アスリンは言葉に詰まった。あの時、シンイチとアスリンは同じブルマー廃止反対側に立って戦ったのだ。同じ生徒会長選挙に出馬するのならライバルにはなるが、それが即相手への嫌悪感情になるなど、奇妙に感じられるだろう。
「それは・・・か、関係無いでしょう!?とにかく、私はあいつが大っ嫌いなんです!あいつに選挙で負けて副会長とかになって、あいつに命令されるなんて絶対嫌です!!」
アスリンはシンイチへの拒絶に何故かしゃかりきになってしまって、そこまでほざいて息が荒くなってしまった。
レイナには理解できないが、意味も無く・・・いや、アスリンなりの何かしらの理由があって嫌悪感を抱く事には、それこそ生徒会の人間としても何の介入もできなかった。
「そう・・・好きにしたら・・・」
レイナはもうアスリンと話す意味も無いと思ってその場から去った。
もし、アスリンがさっきとは正反対の方向に誤解して「生徒会長はシンイチの事を好きなのか?」等と訊いてきたら、きっとレイナはこう答えていただろう。
「・・・何を言うのよ・・・」
レイナが生徒会室に戻ってきた時、まだシンイチは中にいた。その日の仕事もほぼ片付いたのでお疲れさんのティータイムの真っ最中だった。
「やれやれ、やっと戻ってきたね・・・もう仕事は殆ど片付いちゃったよ」
「・・・ごめんなさい・・・」
気安くレイナに対して愚痴・・・いや、軽い嫌味を言えるのも、トオルが副会長と言う立場であるからだけでなく、幼馴染であるからという理由の方が大きかった。そして、それにすぐに応えて謝罪する素直さをレイナが見せるのも、相手がトオルだからに他なかった。
「学院長先生のお小言が長引いたのかい?」
「それもある・・・けど・・・」
レイナはその時になってようやくまだ中にシンイチがいる事に気付いて、一瞬言葉を途切らせた。
「・・・いたの・・・猪狩くん・・・」
レイナとシンイチは全く面識が無かった訳ではなかった。廊下ですれ違う時もシンイチはちゃんと会釈したし、レイナが生徒会室から逃走する前にシンイチが入って来る事もあったし、一言二言ぐらいの言葉は交わしていた。
「シンイチくんは物覚えが早いからね。普通は一年間掛かって覚える事も一週間ぐらいで覚えてしまう。本当に来年の生徒会長になるべき才能を持ってるよ」
「そう・・・良かったわね・・・」
「綾見先輩もどうぞ」
ティータイムに準備されているお茶菓子は、生徒会のメンバーが自腹で購入したものだ。活動費をそんな物の購入には決して使用していなかった。シンイチも持ってこようと考えたが、自分が自由に使えるお金なんて無い事に気付いて口に出せなかった。もっとも、トオル達はそんな心遣いは無用とも思っていたが。
「・・・おいしいわ・・・」
「良かった・・・少し煮出し過ぎて渋かったかもしれないと思ったけど・・・」
何を隠そう、今日の紅茶はシンイチが淹れたものだった。まあ、トオルとレイナにシンイチはストレートで飲むのが普通で、モモコやヒロキにシゲキは砂糖をたっぷり入れて甘々にして飲むタイプだったようだが。
「そうそう、明日僕は放課後、贅嶺女学園の生徒会に顔を出してくるから、明日はちゃんと君が仕切ってくれよ」
さっきの先方からの手紙は、今年度の御苦労さん会みたいなものを行うという事で、その出席依頼だったのだ。勿論、この場合は生徒会長・副会長が出向くのが習わしで、どっちがどっちに行く・招かれるのも隔年で代わっていて、今年はこちらが行く事になっていた訳だ。そして、トオルはこの機会を利用して、レイナがシンイチが来ると何か理由を付けて不在になるのをやめさせる事を考えたのだ。
「そんな・・・初耳だし・・・勝手に決めないで・・・」
「今までずーっと君の我儘に僕は付き合ってきたんだよ?一回ぐらい僕の頼みごとを聞いてくれてもいいじゃないか」
「でも・・・」
「僕たち二人が抜けてしまって、全ての仕事をみんなに押し付けるのは良くないと思わないかい?」
「私達も・・・二人いなくなるのはちょっと・・・」
「どちらかお一人でも残って欲しいです」
これで3対1である。ちなみに正式な役員ではなく手伝いのシンイチとシゲキは評決には加われないが、シゲキはトオル案にもちろん賛成でシンイチは新参者なので投票辞退という態度だった。
かくして、レイナはとうとうシンイチとちゃんと顔を付きあわせる事になってしまう事になってしまった・・・。
その天国の情景はとある学園の体育館倉庫室内が舞台になっていた。
「ああっ・・・す・・・すごいよ、トオルさん・・・」
「キミこそ・・・うまいよ、シンイチくん・・・」
「何くっちゃべってんのや、もっと互いに気持ち良くしたらんかい!オラオラッ!」
「こいつらはラヴラヴだからな・・・こっちもだっ!」
シンイチとトオルは69の形―――シンイチが下でトオルが上だ―――になって、互いのフル勃起したペニスをフェラチオしている。そして、シンイチはコウジに、トオルはケンタにそれぞれアヌスをペニスで突かれまくっている。
いったいこの情景―――腐女子にとっては天にも上りそうな脳天直撃やをいシーンだが―――は何故生まれたのか?
切っ掛けは校内のブルマー廃止問題の件かもしれない。ふとした事で、シンイチはブルマー廃止反対の理由が本当は男女区別ではなかった事をトオルに話してしまったのだ。本当の理由は・・・自分が女装趣味で、ブルマーが廃止されてしまったらブルマーでの女装ができなくなってしまうからだった。それを知ったトオルは、シンイチのブルマー女装姿を見てみたいと言ってしまった・・・トオルも、シンイチに邪な妄想を抱いていたのだ。文化祭でのシンデレラ姿を見た時から気になっていた・・・いつかシンイチを自分のモノにしたい、等と・・・。
そして、シンイチはブルマー女装姿でトオルの前に現れ、トオルは思い余ってシンイチを押し倒してしまい、そこから二人の同性愛が始まった。だが、そんな二人に反感を持つクラスメートがいた。コウジとケンタである。コウジとケンタとシンイチはよく三人一緒に連るんでいて、なんだかんだで三バカ大将などと不名誉なニックネームも付けられたりしていた。だが、シンイチがトオルと付き合い始めてから、コウジは何だかシンイチが自分達に対しよそよそしくなったと感じていたのだ。その理由が分かった時に、コウジはシンイチに激しく憎悪した。自分達の友情よりも、ほもーんの方が重要だったのか!?と・・・。そして、ケンタの方はまた別の理由だった。
例の校内の人気男子/女子の盗撮生写真販売だが、とうとう何者か―――言うまでもないかもしれない―――の密告で、生徒会に知られる事となり、ケンタは校内でカメラに触れる事を禁止されてしまったのだ。それもあって、ケンタの憎悪は自分の行為を糾弾しながらほもーんにふけっているトオルの方に向けられた。
シンイチの後を付けて誰もいない生徒会室でやをっている―――有る時はトオルがシンイチの、またある時はシンイチがトオルのペニスをフェラチオし、そしてまたある時は69でフェラチオしあっていた―――のを発見したコウジとケンタの二人は、そのネタで脅迫し、己達の憤怒をシンイチとトオルのアヌスにぶつけた。
なぜそこでアナルレイプと言う展開になるのかが、やはり腐女子の腐女子たる妄想の爆発そのものであり、筋などはどうでもいいらしい。
“はじめては・・・トオルさんに・・・捧げたかった・・・”
“それは・・・僕も・・・同じだったよ・・・”
もちろんその「はじめて」とはアナルヴァージンの事だった。しかし、それはどちらもシンイチの友人だった二人の男に奪われてしまった。
だが、嘆き悲しんでいる場合ではない。どちらかと言うと、アナルレイプによる快楽に気を抜けばそのまま昇天してしまいそうになる。それでは、シンイチもトオルも愛する相手に申し訳が立たない。だから、快楽に耐えながらさらにフェラチオに精を出した。
「い、いいっ、気持ちいいっ!」
「あ・・・ああっ・・・もう、イキそうだよ・・・」
愛する相手からのフェラチオによるペニスへの快楽、そしてそれよりもさらに大きいアナルレイプによる快楽がより二人のアヌスの締め付けを強くする事になった。
結果、アナル内をピストンしながらペニスを打ち込んでいた二人にも更なる大きな快楽を与える事になった。
「「も、もぉ・・・出るうぅーーっっ!!」」
その快楽に耐えられず、コウジとケンタは絶叫してシンイチとトオルのアナル内に激しく射精をしてしまった。そしてアナル内に射精されてしまった事のショックで、とうとうシンイチとトオルも互いの口腔内に激しく射精をしてしまった。
互いに相手に捧げたかったアナルヴァージンをコウジとケンタに奪われたとしても、シンイチとカヲルの互いを想う心に変わりは無かった。だから、相手のペニスから激しく噴射されてたちまちのうちに口腔内を満たした精液も、決して顔をしかめる事無く美味しそうにごくごくと飲み干していった。
「ったく、美味そうに精液飲みやがって!」
「そんなに好きなら俺のも飲ませてやるよ!」
さんざんアナル内に精液を注ぎ込んだというのに、アヌスから引き抜かれたコウジとケンタのペニスは未だにギンギンにおっ勃っていた。
「「ほらっ、咥えろ!」」
コウジとケンタはそれぞれトオルとシンイチの口に己のペニスを無理矢理突っ込んだ。それは、つい直前までアナル内に突き込まれていたものだ。だから、本来なら鼻が曲がりそうな香ばしい臭いに包まれていた筈だが、シンイチとトオルにとってはそれは愛しい相手のアナルの香りそのもの。だから、何故かそれは芳しい匂いと感じられ、結果、シンイチとトオルはケンタとコウジのペニスにかぶりつくようにむしゃぶりついてさっきまでやっていた激しいフェラチオを再開した。
“ “ これが・・・シンイチくんの/トオルさんの・・・アナルのにおい・・・ ” ”
おそらく、互いにアナル舐めもしたいと思っていたに違いないシンイチとトオルのフェラチオは、射精直後でビンカンになっていたケンタとコウジのペニスに早くも激しい射精衝動をもたらした。
「「ま、また・・・出るうぅーーっっ!」」
再びケンタとコウジは絶叫してシンイチとトオルの口腔内に激しく射精をしてしまった。
二回も立て続けに射精しては、流石に疲労感も出てきてコウジとケンタは未だにギンギンにおっ勃って居るペニスをさらけ出しながらその場に尻から座り込んでしまった。だが・・・。
「シンイチくん・・・」「トオルさん・・・」
いつの間にか全裸になったトオルとシンイチの二人は互いに相手のペニスを扱きながらキスを貪っていた。その口端からは、コウジやケンタが発射した精液の残渣がこびりついていた。
「「もうでるっ!ぼく、ああっ、でるっ!イクっ!・・・わぁっでるっ!あーっ!」」
流石にペニスをしゃぶるだけでは性的興奮は得られるものの、ペニスやアナルに刺激が無ければ性的快楽は得られない。コウジやケンタが二回射精したのにまだ一回しか射精していなかったシンイチとトオルはシャカリキに相手のペニスを扱きあい、同時に絶頂に達して射精した。
互いに相手の精液が自分のお腹に降りかかっても、その熱い雫の付着は、まるでマゾが蝋涙の肌への滴下に歓喜の表情を浮かべるかの如くで、シンイチとトオルはうっとりとしていた。
「こ・・・このヘンタイどもがっ!!」
「それなら俺達がもっと汚してやるっ!」
とうとうコウジとケンタもキレたのか、二人とも全裸になってシンイチとトオルに襲い掛かった。
「「うおおーーっっ!!」」
そして、シンイチとトオルは互いの精液とコウジやケンタの精液をアナル内や口腔内だけでなく、顔中や身体中に浴びせ掛けられ、白濁液まみれになりながらも互いに見つめ合って幸せそうな表情を浮かべているのであった・・・。
fin
「チョースゴイです、チコさん」
「これ、コミケに出したら爆売れで、きっと伝説になりますよ」
「もはや神です」
リエ・ミエ・ミチコのJK三人組は次の上期コミケ用としてチコの描いた同人18禁やをい作品を見てそんな感想を述べた。
「気に入ってくれて良かったわ。まあ、コミケに出すとしたら、原作者の了解が必要だけどね」
チコは自分の隣でそのマンガを一緒に鑑賞していたアスリンに話を振った。
「あ、いえ、原作と言っても、私はネタとかアイデアとか出しただけですけど」
登場人物の名前はシンイチにトオルにコウジにケンタ、である。勿論、マンガの中のキャラも彼らの顔立ちを参考にしてモデリングされているが、はっきり言ってその4人の了解など取っていなかった。
「勿論、オッケーよね、アスリン」
「どうせならアスリンもチコさんと一緒に参加したら?」
「ああ、原作者だからそれいーじゃん。当然参加資格はあるし」
「じゃあ、私達も売り子とかで手伝っちゃおうよ」
チコやアスリンの了解も取らずに勝手に話を進めて、自分達もコミケに参加して、あわよくば売上金の一部を・・・獲らぬ狸の皮算用とは正にこの事だが。
「とりあえず、感想言ってもいいですか?」
「ええ、どうぞ。忌憚の無いご意見をよろしく」
「・・・きたん、って何ですか?」
アスリンは素で聞いたのでチコは思わずずっこけた。
「キター!!を使うなって事?」
「汚い言葉じゃね?」
「ぎったぎったでしょ?」
JK三人衆の連続素ボケコンボにチコはさらに三度ずっこけさせられた。
「あ・・・あんた達ねぇっ!?」
その四人のあまりの無知加減―――まあ、アスリンは帰国子女だから仕方ない部分は有るかもしれないが―――に思わずチコはバクハツした。
それはともかく、チコの言った言葉の意味を彼女に教えて貰ったアスリンは、遠慮せずに思った事を口にした。
「えっとですね・・・ずーっと精液って言葉を使ってますよね?今時もう使いませんよ。私達の周りではみんなチンポ汁って言います」
「あー、そう言えばそーだわ。今更精液なんてさぁ」
「まあ、確かに言葉は間違ってないけど、そんな言葉使ってたらバカにされるじゃん」
「何オトメぶってんの、ってねぇ」
アスリンの言葉にJK三人衆も同調した。確かにそれはチコ自身も知ってるし、自分も通り過ぎてきた訳で、でも文字数も多くなると予算の事を考えなければならない訳だった。
「それと、フェラのシーンですけど、私としては本人のアヌスtoマウスの方がいいと思います」
「えー、それじゃ、自分のアヌスに入ってたチンポを咥えるって事じゃん?」
「ちょっと・・・汚らしくならね?」
「相手のアヌスに入ってたのも素直に咥えられるのが愛し合ってる二人として当然よね」
「それもそうですけど・・・それって普通でありふれた感じがするんです。それに、シンイチって本当にセルフフェラできるし、問題無いと思います」
「ああ、そう言えばそうだったわね!うっかりしてたわ、そのセルフフェラシーンもどこかに追加しちゃおう」
チコが閃いたのは、シンイチがトオルの事を思ってオナニーしていてセルフフェラまでやってしまうと言うシーンだった。
「あと、フェラチオさせる時に咥えろ!って言うセリフだけじゃ何か物足りない気がします。もっとストレートな表現の方がインパクトがあると思います」
「ふーむ、例えばどんな言い方?」
「えーと・・・チンポを舐めろ!とか・・・チンポをしゃぶれ!とか・・・」
「ムハッ、アスリンたらスゴーイ」
「大胆だわー」
「ただスケベなだけじゃね?」
そこにいる五人は全員未だ10代―――まあ、ローティーンとミドルティーンとハイティーンと言う違いはあるが―――であり、何かズレた発言にも感じられるが。
勿論、敵対関係でない以上、アスリンは年長者にましてそれが女性である場合は年齢絡みの発言は一応控える心遣いはできるようになっていたので何も言わなかったが。
「それに、できればただ無理矢理フェラチオさせられるというのじゃなくて・・・例えば、葛藤する描写も有った方がよりストーリーに深みが出ると思います。で、迷った挙句、自ら咥え込むとかそんな感じになったらサイコーですけど」
流石にアスリンは経験しているので、それを活かしたコメントになっていた。勿論、その経験とは自らがフェラチオをした事があると言う事ではなくて、男子中学生であるシンイチに有料フェラチオサービスをやらせていた時の経験である。例のDPSでイツコがいろいろとシンイチの心情を分析したレポートも見せて貰ってもいた。まあ、結局そのイツコのレポートも、シンイチが自分の意識を男のコから女のコに切り替えてからのものについてしか分析できていなかった―――その部分しかデータが取れなかった―――訳で、厳密に言えば不完全なものだったのだが。
「えー、それから最後に・・・これはなんてゆーか、お約束みたいなものなんですけど・・・」
「良いわ、遠慮なく言って頂戴」
アスリンが何故か口籠ったので、チコは先を促した。
「アーッ、って部分ですけど・・・アッー、て書いた方がリアルと思います」
「あっ、そうか、忘れてたわ。今じゃその表現の方が普通だもんね」
アスリンが少々口籠ったのは、それをチコに気付かせたことで、逆にチコを怒らせることになりはしないかと危惧したせいだった。決して、そのアーッ、ではなくて、アッー、という言い回しについて、その発案者に対しての心配・・・所謂アイデア・発明権あるいは著作権に関する事ではなかった。
元々はアメリカにいた帰国子女なのだから、アスリンがアメリカには無いやをいを知ったのはこの学園に転入して以降であり、腐女子としては先天性ではなく後天性なのだが、そこはやはり性欲の権化とも言われるお年頃であるせいか、アスリンは貪欲に自分の願望をチコに伝えた。
「有難う、ものスゴ~~く参考になったわ。アスリンの意見を反映してもう一回描き直して、それを次のコミケに出そうと思う。期待して待ってて」
チコは上機嫌で大学部の校舎へ帰っていった。
そして、高等部の校舎の使われていない一室に残ったアスリン、リエ、ミエ、ミチコの四人はいよいよ本題に入る事にした。
「で、どうやって味方につけるか、なんだけど・・・」
アスリンがこの三人に相談に来たのは、シンイチが心酔しているらしいトオルをどうやって罠にかけてシンイチと同じ地獄に叩き込むかについていい手段が見つからず―――サトミとイツコに相談したら、手っ取り早く実弾を使えと言う話になりそうだと思ってやめておいた訳で―――同じ腐女子仲間でシンイチの事も知っているこの三人の所に来た訳だ。
「多分大丈夫よ。可能性はあるわ」
「どうしてそう言えるんですか?」
「私が調べたところ、新しい生徒会の人達は全員腐女子の筈よ」
「それ、本当ですか?」
「やをいが嫌いな女子なんていません!って言うじゃん!」
「それはそうですけども・・・」
どうも三人の話しっぷりは何だか怪しい。確証が無くていざ実行して失敗したら元も子も無くなる・・・まあ、その結果シンイチがどうなろうか知った事ではないが、災いが自分達に及ぶのはできれば避けたい―――万が一そんな事態に及んだら、それこそ実弾を使って何とかするか、あるいは萩生コンツェルンの力を使ってどうにかするしかなさそうである―――訳で、アスリンもイマイチ納得ができないようだった。
「うーん・・・それなら、アスリンが納得するような証拠を作るしか無さそうね」
「は?作る?」
「勘違いしないで。次の生徒会の人達が腐女子である証拠を押さえるという意味」
「ああ、そういう事・・・てっきり嘘の証拠を捏造するのかと思ったわ」
「すると、その為にはやっぱり、エサが必要よね」
その言葉でアスリンはすぐにエサ=シンイチだと気付いた。果たして、三人はシンイチをどう使って新生徒会のメンバーが腐女子である証拠を入手するのであろうか?
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