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【2】-4
東証一部上場。売上高の規模は一千億円を超える。そんな大企業の「代表取締役社長」――。
「接客の仕事をしているなら今日は休まなければならないだろうし、今後のことを相談しなくては」
「今後のこと……?」
まだ驚いている千春を残し、有栖川は改装中の店に入っていった。誰かに何か声をかけ、歩道に戻ってくる。そして千春に軽く頷くと、斜向かいの角に建つ小さな商業ビルに向かって歩き出した。
千春は慌てて、その長身の背中を追いかける。
白い板張りの階段を上がり、格子の入ったガラスのドアを押すと、昨年改装したばかりの店の奥から、金井の声が聞こえてきた。
「すみません。まだ準備中で……」
誠司の元同級生で親友でもある金井は、今年二十九歳の『カナイ珈琲』二代目オーナーである。店は彼の母親から引き継いだものだ。爽やかさを絵に描いたようなイケメン店長にはファンが多く、彼を目当てに通う常連客で店は繁盛していた。
「なんだ、千春か。いったい……」
奥から出てきた金井は、千春の顔を見ると「うわっ」と口元を覆った。
「どうしたんだ、その顔……」
「転んだ……」
「転んだって、おまえ……。誠司が見たら発狂するぞ」
千春の後ろにもう一人、人がいることに気付いて、金井がそちらに視線を向ける。そして、すぐにぽかんと口を開けた。
「有栖川社長……?」
同じ飲食業界で、小さくとも一国一城の主を務める金井は、カリスマ経営者の顔をしっかり記憶していた。
「いったい、これは、どういうことだ?」
聞かれても、うまく説明できない。
千春の代わりに有栖川が口を開いた。手際よく状況を説明した後で、「彼の怪我の責任は我が社にある」と言い、「申し訳ない」と頭を下げた。
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