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【2】-7

「これで安心した。では、また改めて連絡させてもらうよ。連絡先は……」 「この店でいいよな」  金井の言葉に千春も頷く。了解、と短く答えて、有栖川は時計に視線を落とす。それから「じゃあ」と軽く手を上げて店を出ていった。  金井がふうっと息を吐く。 「あんなえらい人が、直接謝りに来るものか?」 「だよね。びっくりした……」  人に怪我をさせてしまったのだから、責任者が対応するのは当然かもしれない。それでも、有栖川の立場の重さを考えると、もう少し下の人間に任せてもいいような気がする。 「たまたまその場に居合わせたんだろうけど、フットワークが軽いよな」  うん、と頷く千春の顔を、金井が嫌そうに見る。 「とりあえず顔洗ってこいよ。手当てもしてやるから、救急箱も持ってきな」 「はーい」  洗面台のある店のトイレに向かった。鏡を覗いて、思わず「げっ」とのけぞる。 「ひど……」  顔の右半分が全滅だ。肌が白い分、傷痕の赤さが妙に生々しく見える。これでは仕事を休めと言われても無理はない。 「思ったより、すごかった……」 「だろ。誠司の反応が見ものだな。いっそ泣くんじゃないか?」  金井の言葉に、千春は小さく唇を噛んだ。 「……どうかな」  金井が「ん?」と千春の顔を見返す。なんでもない、と視線を逸らした。  今までの誠司なら、心配して怒ったかもしれない。けれど、今の誠司にとって、千春はもう、そんなに大事にして構いたい相手ではないような気がする。

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