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【3】-2

『別に迷惑なんかじゃないよ。図書館の代わりにここに寄るだけだし、かえって勉強しやすいくらいだ』 『でも……』 『無理な時は来ない。ずっと一人で置いておくより、いくらかマシ。その程度だよ』  結局、伯母からも『誠司がそうしたいって言うんだから、やらせてあげれば』と後押しされて、母はその提案を受け入れた。 『できる範囲でいいからね? 学童に入れそうなら、そっちに行かせるから』  しかし、千春が学童保育に行くことはなかった。誠司はほとんど毎日やってきたし、空きができたと言われた時には、千春が行きたくないと言った。誠司といたいと言い、誠司もそれでいいと言った。  一度家に帰ってランドセルを置き、友だちと外で遊んでからまた家に戻ると、その頃にはもう誠司が来ていて、ダイニングキッチンのテーブルでノートを開いていた。千春が帰ると、勉強道具を鞄にしまい、趣味だからつきあえと言って料理を作り始める。それを二人で食べる。  母が仕事で遅くなる日は帰ってくるまで一緒にいてくれた。週末に泊まってくれることもあった。千春の部屋の小さなベッドで、長い手足を器用に畳んだ誠司にくっつき、友だちのことや学校での出来事を話したいだけ話した。  小学生の男子が抱える憂いなど、腹が満ちれば半分はどこかに行ってしまう。残りの半分は、誠司の温かい胸に抱かれ、とりとめのない話をしながら眠りに就くうちに、いつの間にか小さくなっていった。  何をやらせても優秀な誠司は、家事の腕も完璧だった。千春に料理を作って食べさせるだけでなく、千春自身が母に代わって家の切り盛りをできるよう、掃除や洗濯の基本を教え、簡単な料理を教えた。高校生の男子が小学生に家事を教える光景は、今思うと若干もの悲しいものがある。けれど、当時の千春は誠司と一緒にすることなら、全てが楽しかった。誠司といるだけで幸せだったし、何をしていても嬉しかった。誠司がいれば、どんなことでも頑張れると思った。

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