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【3】-4
嵐の夜に、どうしてもとせがんで泊まってもらったのを最後に、誠司が千春の部屋に泊まることもなくなった。中学二年生になっていた千春は、わがままを言えるほど幼くはなく、忙しくなったと言われれば聞き分けなければならない年齢だった。
冷たくされたわけではないし、頼めばたいていのことはしてくれた。勉強を教え、食事を作り、怪我をすればおかしいくらい丁寧に手当てをしてくれて……。
それでも、距離はどんどん開いてゆく。
触れようと伸ばした指や近くに寄せた身体を、さりげなく、けれど確実に、息を詰めるような間をおいて、遠ざけられた。
その頃には、千春も自覚し始めていた。
自分が誠司を慕う気持ちは、年上の従兄弟に向けるものではない。触れたいと願い、触れられたいと思う。
苦しいような想い。
その想いに「恋」という名前を当てはめた時、甘い痛みが波のように千春をのみ込み、息ができなくなった。
同性であること、血のつながった従兄弟であること、そんな相手に抱く想いではないこと。わかっていても、どうすることもできない。
それでも、千春の想いを知れば、誠司はもっと遠くへ行ってしまうだろう。
千春は、自分の想いを封じた。誰にも知られることがないように、邪気のない年下の従兄弟を演じることを選んだ。
付き合っている女性がいると聞いたのは、最後に誠司が泊まった日から、しばらくたってからのことだ。
その時も母が、誰か――おそらく伯母との電話の後で、何気ない調子で言ったのだ。
『誠司くん、恋人ができたみたいよ』
千春は黙って母の顔を見た。
『あれだけ素敵な子だもの。今まで一度もそんな話がなかったことのほうが不思議よ』
母は嬉しそうに続けた。
『むしろ遅すぎたくらい』
キラキラ光る弾んだ声で。
そして、千春に言った。
『いつまでも誠司くんに甘えていてはだめよ。そろそろ自由にしてあげなくちゃね』
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