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【3】-5

 千春に何が言えただろう。  何が言えるだろう。  あの時も今も。  夢の中、アセチレンランプに照らされて、リンゴ飴が赤く光る。明るい光の隣には、それと相対するように深い闇が広がる。  土と砂利で汚れた飴を握り締め、暗闇の中で誠司の名前を呼んだ。 『誠司さん……っ』  どこにも行かないと約束した。  十四年経った今も、千春はあの時の約束を守っている。  どこかへ行くなと言ったのに、千春を置いて遠くへ行ってしまったのは、誠司のほうだった。

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