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 就職の面接でそんな話をしても、あまり芳しい反応はもらえなかった。さらりと聞き流されるか、完全に無視されるか、時にはかすかな冷笑を受けたこともある。ああいう場所では、もっとリーダーシップを発揮した経験や、特別なスキルについて話したほうがいいのだと、キャリアセンターの担当職員や友人たちから言われた。  けれど、そんな話題の持ち合わせは、千春にはなかった。  次々と周りのみんなが就職を決めてゆく中で、千春だけがうまくゆかない。すっかり自信を失いかけていた時に、人のことをよく見るのはいいことだ、どんな仕事にも役に立つと言ってくれたのが勝山商事の人事担当者だった。文字通り、千春は救われた。  内定が一つしかもらえなかったという理由だけでなく、勝山商事という会社と縁があったことを、心から嬉しく思った。  思ったのだけれど……。 (また、中止って……)  午前中にスマホに連絡が入り、明日の研修が中止になったことを知らされた。予定されていたうちの、最後の回だ。  さすがに心配になる。  忙しさを滲ませて中止を伝えてきた担当者に、詳しい理由を聞くことはできなかった。  誰か相談できる相手がいればいいのだが、同期になるはずの仲間との連絡先の交換はしていない。二回、三回と会ううちに、自然と聞く機会があるだろうと思って逃してしまった。 「千春」  金井に手招きされて、入口近くのレジに向かう。有栖川が帰るところだった。 「明日の昼頃、ここに迎えに来てくれるってさ」 「迎え?」 「食事をご馳走する約束だったね。明日の予定が空いたと金井くんから聞いて、ちょうど私も予定が空いたところだったから……」 「食事……? そんな約束……」 「怪我をさせたお詫びに、何かご馳走せてもらうと言ったはずだが」 「それは、でも……」  確かに「食事を」と言われた。有栖川の会社の食事券なら負担は少ないかと思って、千春はそれを受け入れたのだ。  だが、食事券ならばと勝手に判断したのは、千春なのだと気付く。有栖川に詳しい内容を確認したわけではなかった。  言葉を探しているうちに、有栖川はガラスの扉を押して出ていってしまった。  その後ろ姿を呆然と見送り、金井に向き直る。 「なんで……」

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