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【5】-6

「研修、なくなったんだろ? なんだかちょっと凹んでたし、ちょうどいいんかと思って」 「勝手に約束しないでよ」 「まずかったか? ほかにやりたいことがあったとか?」 「そうじゃないけど……」  食事をご馳走になる理由がないと眉を寄せると、千春は変わっていると笑われる。 「あんなすごい人と食事ができる機会は、そうそうないぞ。せっかくなんだから、いろいろ話を聞いてこいよ。てゆーか、普通に楽しんでくればいい」 「よく知らない人と二人で食事するなんて、なんだか落ち着かないよ」 「そうか? ……確かに、おまえならそうかもな」  少し考えて、金井は「勝手なことをして、悪かった」と殊勝に謝った。  そうなると、もう何も言えない。「いいよ」とため息を吐いて、金井を許した。  金井の言うこともわかる。明日の予定が空いてしまったのは事実だし、ほかに用事はないのだから、それで約束が果たせるなら行ったほうがいい。有栖川は忙しいだろうから、彼に時間がある時に行っておくべきだ。  それでも、今の状態で食事など楽しめないだろうと思った。  相手がたとえ有栖川でも。ほかの誰かでも。  なるべく考えないようにしている誠司の結婚のことや、考えまいとしても考えてしまう勝山商事のこと、どちらも気になって、今の千春は心に余裕がない。  翌日は、運転手付きのクルマが『カナイ珈琲』まで迎えに来た。向かった先は大使館などが多い地区にあるイタリアンレストランで、店の前で有栖川が待っていた。  高級そうな店だった。  千春はにわかに自分の服装が心配になった。一応、ジーンズは避けて、襟のあるシャツとジャケットを着てきたけれど、どれもふだん着である。 「クルマだけで迎えに行かせて、すまなかったね」 「いえ……。お招きいただきありがとうございます」

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