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【6】-3

 生き生きと仕事の話をする母に相槌を打ちながら、千春は自分の将来に影が差し始めているのを感じていた。 (研修がまた中止になって、次はいつ会社に行けばいいんだろう……)  カレンダーには何も予定が書き込まれていない。 (何か郵送されてくるかもしれないけど、待ってるだけじゃ心配だ……)  やっぱり電話をかけてみようと心に決める。会社の人たちは忙しいかもしないけれど、だいたいの予定だけでも教えてほしい。  入社日までは、一ヶ月足らず。焦っても仕方がないと自分に言い聞かせる。  少しずつ暖かさを増す日差しの中、笑顔の母を嬉しく思いながらも、どうしてか自分だけが取り残されてゆくような気がした。  誠司はどうしているだろう。  顔の傷が治るまでの一週間余り、誠司は毎日のように様子を見に来た。休暇を何日取ったのか知らないが、かなり頻繁にやってきて、ついでのように料理を作っては千春に食べさせた。  あまりに世話を焼いてくれるので、結婚するというのは間違いなのではと淡い期待を抱きたくなったほどだ。  何種類もの料理を食べさせながら、千春に細かい感想を求める。  ベーシックな料理も一通りこなす誠司だが、千春が特に好きなのはイタリアンをベースにした誠司オリジナルの創作料理だ。小さい時に子ども受けしそうなトマト味で手なづけたのは失敗だったと言いながら、野菜をふんだんに使ったパスタやピザを作ってくれる。本当は和食好きに育てたかったと、時々ボヤきながら……。今さらそんなことを言われても困るのだけれど。  ベースはイタリアンだが、誠司はさまざまなアレンジを加えて無国籍な料理に仕上げてゆく。サラダやスープなどはアジア系の食材も多く使うし、調味料に味噌や醤油やコチジャンを入れることも多い。どれも初めて口にする新しい味で、驚くほど美味しいのだった。  家庭料理の延長だと誠司は言うが、斬新なのに懐かしさもある味は、千春だけが口にするのがもったいないと、いつも思っていた。 『美味しい。誠司さん、お店をやったらいいのに』 『店? どんな?』 『わかんないけど、もっとたくさんの人に誠司さんのごはんを食べてほしい』 『たくさんの人って、たとえば誰だよ』 『うーんとね……、世界中の人!』 『世界中か……』 『うん!』  そんなやり取りを何度もした。そのたびに誠司は『いつかな』と楽しそうに笑っていた。 

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