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【8】-9
へたりこんだままの千春に、有栖川は静かな声で聞いた。
「内定の取り消しかな……?」
千春はかすかに頷いた。
「そうなのか!」
有栖川の話を聞いていた金井が、驚いてカウンターから出てくる。
「そんな勝手なことが許されるわけないだろ! 入社式は明日なんだぞ」
「あの人も経営者だからね。どこかで決断をしなければならない。会社を潰すか、何かを切り捨てるか」
「だからって……!」
「分かれ道は何度かあったはずだ。どちらに進むかで状況は大きく変わる。勝山さんは何度か選択を間違えた。今度が最後だ」
彼は情をかけすぎるのだと、有栖川はかすかに首を振る。
「もともと利益よりも良心的な対応を重視して、黒字の年より赤字の年のほうが多い会社だ。会社そのものに体力がない状態で、今回の『午後壱』の不渡り。勝山商事に非はないが、銀行は手を引き始めている。来期の数字が悪ければ、追加融資どころか資金の引き揚げに傾く可能性も高い」
そうなると、取引先も警戒する。悪循環なのだと有栖川は言った。
「勝山商事が生きるか死ぬかは、次の四半期にかかっている。その三ヶ月を生き延びたとしても、厳しい状況はしばらく続くだろう。新卒を採る余裕はない。採ったとところで、会社がなくなってしまえば同じことだ。路頭に迷う者の数が増えるだけだからね」
「だからって」
金井は本気で怒っていた。
「そんなんで、千春に貧乏くじがまわってきたって言うのかよ! 千春をなんだと思ってるんだ!」
有栖川は、千春の肩にそっと手を置いた。
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